インタビュー・座談会

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」/石山麗子・遠藤征也・小沼弘樹(前編)

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」/石山麗子・遠藤征也・小沼弘樹(前編)

 国が調査研究を進める「ケアマネジメントの標準化」。個別対応が求められるケアマネジメントを、なぜ標準化する必要があるのか。また、いかに標準化していくのか――。新春特別座談会として、厚生労働省の遠藤室長、石山専門官、介護支援専門員の小沼さんの3人に話し合ってもらいました。

力量による支援内容の差を縮小

力量による支援内容の差を縮小

 石山 司会の石山です。本日は「ケアマネジメントの標準化」をテーマに皆様と議論をさせていただきます。

 現在、厚生労働省ではケアマネジメントの標準化に関する調査研究を進めています。正式な名称は「適切なケアマネジメント手法の策定に向けた調査研究」というもので、2016年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業として日本総研が実施し、成果物として厚生労働省担当者が作成したケアマネジメント標準化の概念の整理(案)に基づき、議論を通して脳血管疾患と大腿骨頸部骨折の2つの疾患について、支援内容を整理しました。今年度は、その成果物を用いて実証事業を行い、妥当性などの検証を進めています。

 まず最初に申し上げておきたいことは、ケアプランとはオーダーメイドのものであり、標準化はできるものではないと考えている、ということです。そのような考えが基本にあるにもかかわらず、なぜケアマネジメントの標準化が必要なのかについて遠藤室長にお尋ねします。

 遠藤 厚生労働省の遠藤です。介護保険制度創設から約17年が経ちますが、地域包括ケアを進めていくために適切なケアマネジメントが期待されている一方で、「アセスメントや多職種連携が必ずしも十分でない」ことから、ケアマネジャーの支援内容を疑問視する声もあります。私自身もケアマネジャーの力量には、かなりの個人差があるのではないかと感じています。結果として支援内容に相当の差違が生じているとの指摘も聞きます。その格差の是正の一方策として、最低限のアセスメントやモニタリングに関する支援内容を整理することによって、このような状況が解消されるのではないかと考えたのが今回の調査研究のきっかけです。

 石山 ケアマネジャーの力量による支援内容の差の縮小が目的とのお話ですが、現場で働く小沼さんは今の意見をどう思いますか。

 小沼 東京都北区医師会の訪問看護ステーションに併設されている居宅介護支援事業所に勤務している小沼です。今回の「適切なケアマネジメント手法の策定に向けた調査研究」の実証事業にも参加させていただいたので、現場の意見をお伝えできればと思います。

 よく研修会の事例検討で、短期目標は共通しているのに、サービス内容となぜそのサービスを入れたかの理由がバラバラになることがあります。それが利用者の個別性による違いなのか、ケアマネジャーの力量によるものなのかについて、今まできちんと検証されずに来たのは事実です。なので、根拠の不明瞭な支援をなくしていく意味での標準化は必要だと思います。

 石山 根拠というのは、一人のケアマネジャーが「自分はこう思う」と語れることではなく、誰もがそれを聞いて、「確かにそうだな」と共通の認識を持てることです。小沼さんが言われたように、今回の標準化では、行われるべき支援が確実に行われ、行われるべきでない支援が排除されることを最大の目的にしています。

 次にどのように標準化の検討を進めていったのかについて、遠藤室長にお尋ねします。

 遠藤 ケアマネジメントを標準化すべきとの意見は、制度創設来、指摘され続けており、その手法はアセスメント様式を統一することだと言われてきました。しかし、アセスメント様式を統一したからといって、標準化が図れるかと言ったら、実際現場においては例え同じ様式を使っていたとしても、支援内容にはバラツキが生じています。ですので、アセスメント様式を統一したからといって、結果的に支援内容のバラツキを無くすことにはつながりません。ではなぜ支援内容の差異が生じるのか。この調査研究を行うにあたって、その要因について徹底的に議論しました。そこで出てきた一つの答えは、「知識と経験に依るところが大きい」ということです。

 小沼 確かに優れたケアマネジメントが行えるケアマネジャーは、自らの知識や経験を活かしたアセスメントやモニタリングを行っています。

 遠藤 もっと言うなら、優秀なケアマネジャーは「勘所」を持ってポイントを定めてアセスメントを行っていたり、おそらくこういう支援が必要なのではないだろうかとの仮設を前提にケアプランを作成したりしています。

 つまり、アセスメントが目的なのではなく、支援内容を深化させるためにアセスメントを行っているのです。なので、いくらアセスメント様式を統一しても、想定される支援内容を導き出すには知識と経験がなければ、標準化されないのです。医師が同じ処方ができるのは、知識・経験などの基盤部分が標準化されているからであり、ケアマネジャーについても、そうした基盤となる部分の標準化が必要だと考え整理しました。

 小沼 アセスメントから支援内容を導く過程の暗黙知の部分ですね。

 遠藤 ある意味で、そこがブラックボックスのままだったから、これまで質の評価や検証がなされて来なかったわけです。ですので、今回の調査研究では、支援内容を導いたプロセスを、誰もが共有できるシステムとして作り上げることを大前提にしました。
 厚生労働省老健局振興課 介護支援専門官 石山麗子さん

 厚生労働省老健局振興課 介護支援専門官 石山麗子さん

(いしやま・れいこ)
 国際医療福祉大学大学院保健医療学部博士課程修了。博士(医療福祉学)。東京海上日動ベターライフサービス、シニアケアマネジャーとして、社内120名超のケアマネジャーの育成を担当。16年、厚生労働省老健局振興課介護支援専門官就任。

ベースは尊厳の保持と自己決定

 石山 今回の調査研究では、成果物として脳血管疾患と大腿骨頸部骨折の2つの疾患について、97項目の支援内容を整理したシートを作成しています。ケアマネジャーとして必要な知識を共有し、誰もが効果的なアセスメントやモニタリングが行えるようにするためのツールになっています。

 標準化の作業に取り組み始めた時は、周りの皆さんにご理解いただくことがかなり難しくて、丁寧な説明を繰り返しました。最終的には、昨年の3月15日の調査事業の委員会で報告書案を承認いただいた際に、医師会や看護協会などさまざまな団体から、「ケアマネが何を考えてケアプランを作っているかがよく分かった」「今後、ケアマネの教育がこれをもって大きく変わることが期待できる」などの言葉をいただいています。

 遠藤 今回、2つの疾患を選定した理由は、要介護状態になる原因疾患の上位であり、地域連携クリティカルパスが普及しているため、多職種でも活用できると考えたからです。医師や看護師、リハビリ職などの考えが、ケアマネジャーの支援内容と合致をするというのがこのシートの大きな目的になっています。今年度は心疾患についても研究しており、将来的には対象疾患をさらに拡大していくことも考えています。

 小沼 疾患に着目しているため、現場からは「身体的側面しか見ていない」「医療寄りではないか」といった声もあります。

 遠藤 確かにそうした批判の声があるのも承知しています。本来、利用者の生活上の課題は「活動」、「参加」、「心身機能」と多岐にわたりますが、今回は心身機能のうち疾患を切り口に着手しました。また、今回のシートには①標準化の概念の整理②疾患など一定の条件を想定した支援内容の整理③基礎知識の共有化――という3つの柱があり、高齢者の生理と心理を正しく理解した上で、疾患別の視点を整理する形になっています。疾患が着目されがちですが、実際にはその前提としての「基本ケア」についても整理してあるのが重要な部分です()。
 石山 考え方を可視化するのは、多職種連携の中で必要不可欠です。今回整理したシートは、治療方針が一番左、それに対する支援内容が右にいくほど、生活の視点に流れていく形になっています。この一覧表をみると、介護側は、治療方針として、自分のやっていることが何につながるのか、医療側は治療方針に従って生活の何を見ているのかというが、双方向で確認できるシートになっています。利用者の自立という観点からはいかがでしょうか。

 遠藤 自立の概念は、精神的自立や社会的自立、そして今回の報酬改定でも強調されている機能改善など、非常に広範囲です。私自身は、これらを包括したQOLの向上が自立を考える上で大事だと思っています。特に介護保険法の1条、2条に書かれている尊厳の保持と被保険者の自己決定は、標準化の考え方を整理する上でも外してはいけない部分です。今回の調査研究では疾患を切り口にしていますが、ベースにあるのは、尊厳保持と自己決定です。身体機能の改善だけを目的にシートが作成されているわけではありません。

 小沼 北区のケアマネジャーの会で行った、自立に対する考え方のアンケートでは、身体的側面、精神的側面、社会的側面の全てにおいて自立が重要と認識しているケアマネジャーが9割以上という結果でした。中でも、最も多かったのが精神的側面の自律であり、多くのケアマネジャーが尊厳の保持や自己決定を重んじています。今回の標準化でその部分が尊重されていることが分かり、安心しました。

 石山 例えば、脳血管疾患のシートには、生活機能の維持・向上の部分で、「受容促進のための働きかけを行う体制を整える」の項目に、「過度の期待、拒否・否定、あきらめ等を抱かず、主体的に自立的な生活への取り組みを促進」とあります()。まさにその人が、自分で生活を作っていくことができるように、心理的なサポートを行うことが盛り込まれています。
 厚生労働省老健局総務課 介護保険指導室長 遠藤征也さん

 厚生労働省老健局総務課 介護保険指導室長 遠藤征也さん

(えんどう・ゆきや)
 1985年厚生労働省(旧厚生省)入省。社会援護局、大臣官房、総務省を歴任。介護保険制度創設に従事後、02年~09年、12年から老健局において制度改正に従事。15年4月より現職。〈著書〉「医療と介護の連携のための疾患別ケアマネジメント基礎講座Vol.1」など。

チームマネジメントの観点も

 遠藤 小沼さんが実証事業で最初にシートを見た時の感想はいかがでしたか。

 小沼 第一印象は項目が多いなという印象を受けました。中には、ここは分かって当たり前といった項目もありました。ただ、脳血管疾患に対する気温差の縮小など、医療的な部分で自分が重視せずにいた部分を気づかされた項目もあります。

 石山 小沼さんの「分かって当たり前」という発言がポイントで、実は個々のケアマネジャーで見ると、それが同じ項目になるわけではありません。「当たり前」と思える項目が人によって違っていて、特に基礎資格が違うと「当たり前」の感覚も随分と異なってきます。ですので「当たり前」と感じる項目も含めて整理したのが、今回の調査研究の狙いです。

 ケアプランには根拠が必要ですが、私は「ケアプランに位置づけなかった根拠」も必要だと思っています。なぜそれを位置づけなかったのか。恐らく感覚的・経験的に必要がないと判断しているのだと思いますが、しかし、あえてそこも意識しないといけない部分だと思います。言葉にして、根拠づけられるようになれば、後進の育成も言語化しながら行えるようになります。

 小沼 確かに、ケアプランに位置付けなかった根拠を言えるかと問われれば、そこを甘くみていた部分はあります。モニタリングの際、シートの項目を確認しながら振り返られるのは大事なことだと思います。

 遠藤 今回の標準化によって、サービス担当者会議を含め、チーム全員がなぜこの支援内容が位置づけられたかの根拠を共有できるようになります。報告書の巻末には位置づけられた支援内容について「いつ・誰が・何を・どこで」というチームとしてのモニタリングの役割をイメージ図で示しています。

 また、今回のシートでは、想定される変化を多職種で予測し、誰がどのように対応していくのかを明確に決めておくなど、役割分担にも活用できるようになっています。ケアプランが動き始めた瞬間からモニタリングをチーム全員で取り組めば、継続的なモニタリングが可能となり、それこそ本当の意味で効果のあるケアマネジメントが実施できるようになると思います。

 石山 2010年頃から、厚労省の資料でも「予後予測」という言葉が使われ始めましたが、今回のシートではケアマネジャーが行うことなので、生活に対する「将来予測」という言葉を使っています。疾患だけを見ているわけではなく、生活全体を見ることを踏まえているからです。

 また、「情報収集すべき専門職」の項目を設けるなど、チームをケアマネジャーがどれだけ組織化していけるかの視点が入っているのが、ケアプランの標準化ではなく、ケアマネジメントの標準化としている理由です。これを繰り返していくうちに、より精度の高いケアプランが作成されていくことが期待されています。

 遠藤 在宅生活を送る上で、医療職が疾患別に最低限おさえるべき部分を、全てのケアマネジャーがおさえているわけではありません。今回の調査研究では、エビデンスのある部分は標準化し、その上で個別性を重視したケアマネジメントを実施した方が、効果的で効率的であるという考え方に立っています。今回のシートを一つのきっかけに、ケアマネジメントのあり方を皆さんで考えてもらうことに大きな意義があると思っています。
 北区医師会訪問看護ステーション 介護支援専門員 小沼弘樹さん

 北区医師会訪問看護ステーション 介護支援専門員 小沼弘樹さん

(おぬま・ひろき)
 東京都北区生まれ。介護福祉士、住環境コーディネーター2級、社会福祉士、主任介護支援専門員。1995年より、介護老人保健施設で介護職員として勤務。2001年より、訪問看護併設の居宅介護支援事業所で勤務、現在に至る。北区ケアマネジャーの会副会長。

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」(後編)に続く

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」(後編)に続く

「現場の英知を集めた支援ツール」ーーケアプランの根拠を示せる/組織で保険者と対話していく(2018年2月10日号)

(シルバー産業新聞2018年1月10日号)

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