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ねんりんピック新聞 2024in鳥取 インタビュー 民謡

ねんりんピック新聞 2024in鳥取 インタビュー 民謡

時代・生活を映す労働唄、力強く
鳥取市 加嶋千恵子さん(75)

 民謡は腹式呼吸が基本。裏声は使わない。「伴奏の三味線や太鼓、囃子の音に負けないくらい声を出す。力いっぱい、一曲歌えば汗もかく。それでも、歌い終わると、不思議と元気が湧いてくる」。民謡がライフワークであり、健康の源だと話す加嶋千恵子さん。はじめは民謡太鼓の音に惹かれ、演奏をしたいと思い「松弘美会」の門を叩いた。入門してほどなく、唄の大切さを説かれる。「伴奏する人も、唄を知らなければ呼吸が合わせられない」。

 それから34年、唄い手としても求道し、民謡の世界に没入することに。レパートリーは200曲以上、門下生で一番のベテランになった。太鼓も打ち、三味線も弾きこなす。
 加嶋さんが特に好きな唄は福島県の「相馬土搗唄」(どつきうた)。いわゆる労働唄の類で、家を建てる際に、整地や基礎固め作業の折に唄われたとされる。「男性が唄うことが多い。節や歌詞に力強さがあるのが好きなポイント。唄っていても、つい力が入り込む」。
 経験を積むにつれ、体に染みてくる奥深い民謡の世界。「民謡には、その土地、その時代を映し出す力がある。唄いながら、一つひとつの言葉から生活の情景や、そこに秘められた楽しさ、苦労を感じとることが、だんだんとできるようになってくる」。こうした思いを共感し、気持ちを乗せて唄うことが上達には欠かせないそうだ。

唄い継ぐことの使命

 日本海に面した鳥取県には、代々伝わる「貝殻節」という最も有名な唄がある。古くは江戸末期から記録が残っている。「海の色が変わるほど」海岸にイタヤ貝(ホタテ貝の一種)が大量発生し、地元の漁師たちが櫓をこぐのにあわせて唄ったものとされ、漁に明け暮れる苦労、奮闘ぶりが表現されている。加嶋さんが子供の頃も、沿岸で貝殻が山のように積まれた「貝塚」を、あちこちで見たそうだ。
 歌詞にある「浜村沖から貝殻招く」は鳥取市の浜村地域を指す。1933年(昭和8年)、浜村温泉が温泉地PR事業として、唄を楽譜に書き起す「採譜」が行われた。このとき初めてレコーディングもされ、現代まで伝わる貝殻節が確立した。

 「ほとんどの民謡は、歌詞は書物などで残っているが、メロディの元となる楽譜はない。昔は唄い継ぐことでしか、次の世代に残す方法がなかった。消滅した唄も数多ある」(加嶋さん)。民謡の道を究めると同時に、今は次世代へ伝え、民謡の伝統文化を守っていくとの使命感に燃えている。
 貝殻節だけを唄い競う「貝殻節全国大会」が毎年、鳥取県で開催されている。昨年で10回目。ジュニアの部もあり、貝殻節を唄い継ぐ土壌の一つにもなっている。孫世代である中高生が壇上で演じる姿に、加嶋さんも思わず心を持っていかれるそうだ。

 ねんりんピックで民謡が正式種目になった背景にも、こうした文化伝承の取組があったからだと言われている。大会は松弘美会から加嶋さんを含め7人が出場。加嶋さんは唄を1曲と、他のメンバーが唄う際の三味線伴奏も担当する。
 「地域・歴史の語り手の気持ちで挑戦する。聞いている人たちの目の前に、景色が広がるような唄を届けたい」。

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