話題
【インタビュー】ねんりんピック大会会長・平井伸治氏(鳥取県知事)
本格的な人口減少社会へ突入したニッポン――。少子高齢化の波はとどまることを知らず、「静かなる有事」として、私たちの将来にも暗い影を落とす。
そうした中、全国で最も人口が少ない鳥取県では、2010年より「子育て王国とっとり」を宣言し、長年にわたり少子化対策に取り組んだ結果、合計特殊出生率の改善(1・60)など、大きな成果をあげている。ねんりんピックの大会会長を務める平井伸治知事に話を聞いた
「子育て王国」 を宣言し、 県をあげて応援
――「子育て王国」建国を宣言した背景や経緯を教えて下さい。
私が初めて知事に就任したのは2007年ですが、その翌年に県内の合計特殊出生率が過去最低の1・43にまで下がりました。知事になった途端、そうした問題に直面することになったのです。県として、これまで子育て政策にあまり熱心に取り組んでこなかったことがあったと思います。
ただ、それは国もそうですし、どこの自治体でも同じなのですが、子育て政策はお金をかけても成果が出にくいため、なかなか事業化がされなかったのです。ですので、ずっと足踏みしたままの状態を革命的に変える必要がありました。
当時、県庁の中でも散々議論しましたが、県内の子育ての環境自体が悪いわけではありませんでした。例えば、シルバー世代の方々が、しっかりと子育てに関わっている。子どもを遊ばせようと思ったら、自然豊かな野山が身近なところにありますし、日本一広い砂場もあります(笑)。また、子どもを村のみんなで見守るといった、昔ながらのコミュニティも残っている。ただ、合計特殊出生率が下がってきているので、この原因を分析して、有効な対策を展開していかなければなりません。そこで、「子育て王国」建国を宣言し、県をあげて子育てを応援していくことを決めました。
――まずは子育てに対する県民の意識を変える必要があったのですね。
そうです。そして、具体的な政策として、小学校や中学校で少人数学級の実現に取り組んだり、育児のための休暇を取りやすくする企業向けの「ファミリーサポート休暇等取得促進奨励金」の創設や子どもの居場所づくりなど、色々なことに取り組みました。
さらに14年には思い切って、中山間地域の市町村の保育料を無償化することにしました。最初にそれを実現したのが若桜町という町ですが、保育料を完全無償化するのにかかった予算は、わずか900万円でした。そのうち半分は県が負担するので、実質450万円で無償化できたわけです。理由は子どもが少ないからなのですが、保育料の無償化は、中山間地域のような、人口が少なく、予算が潤沢ではない自治体でも、〝踏み出せる政策〞だったのです。
――規模が小さいことがデメリットではなく、メリットなわけですね。
そうです。しかも、政策効果が非常に高くて、例えば、子どもの声が聞こえなくなった集落に、若い世代が一世帯でも入ってくるようになると、それだけで、村社会の活性化や防災面の強化につながったりするわけです。そうしたことで、あっという間に、県内の中山間地で保育料の無償化が広がっていきました。
その後、都市部でも実施するべきだという話になり、鳥取県では、翌年から所得制限を設けず、第三子以降の保育料を全額無償化にしました。今でこそ、全国で同様の取組を行う自治体も増えてきていますが、鳥取県では10年前から無償化に取り組んできたのです。
――子育て政策は成果が出るのに時間がかかるので、できるだけ早く取り組むことが大事ですね。
それから、鳥取県では子どもの医療費の助成についても、11年に中学生まで拡大し、今年4月からは高校生まで完全無償化を実現させました。都道府県全域を対象に、所得制限を設けず、全額無償化するのは、全国でも例の少ない取組になります。
そのほか、不妊治療の必要な人が早い段階で治療に取り組むことができるように、不妊症の診断に必要な検査の費用を助成したり、保険適用外の着床前診断の助成を行ったりなど、不妊治療に対する助成を大幅に拡充させてきました。
小さい県ですので、市町村や不妊治療に携わる先生とも風通し良くコミュニケーションをとりながらこうした取組を続けてきた結果、一昨年は合計特殊出生率が1・60まで回復し、出生数が全国で減少する中、鳥取県だけが唯一プラスに転じました。増えたのは第3子以降の出生や40代以上の世代の出産であり、私たちも子育て政策に手応えや、やり甲斐を感じています。
――少子化傾向に歯止めをかけるために、さらにどんな対策が必要ですか。
現在は、「シン・子育て王国とっとり計画」をとりまとめ、男性の育児休業取得率を、25年までに85%に引き上げることや、企業や地域の団体が子育てを応援する「とっとり子育てプレミアムパートナー」制度、カップル倍増を掲げた出会い・結婚の応援などを進めています。異世代の交流は子どもの成長と脳の発達に役立ちますし、夫婦だけでなくシルバー世代も含め、いろんな人たちが関わる子育ての姿を鳥取県は目指したいと思っています。
さらに「シン・子育て王国とっとり運動」として、子どもや若者、子育て中の方など、当事者の意見を聞く取組も始めています。例えば、高校生からは「勉強できる場が足りない」という意見があったので、公共施設のスペースを開放したり、民間企業にもそうした場を提供してもらったりしています。これまでは、若い人たちが上手く政治に参加できていないと感じていましたので、こうした取組が、新しいデモクラシーのあり方になるのではないかと期待をしています。
――最後にねんりんピックの大会会長として、参加者の皆さんにメッセージをお願いします。
私どもとしては、「ようこそ、ようこそ」の精神で、おもてなしをさせていただきます。この「ようこそ、ようこそ」というのは、「因幡の源左」という我々の先人の口癖でして、方言で「ありがとう」という感謝の心と、「よくいらっしゃいました」という歓迎の意を表しています。
それから鳥取県は、「梨の王国」でありまして、今回、「おもて〝梨〞パスポート」というものを作成し、これをねんりんピックに参加する全選手団にお送りさせていただいています。パスポートには、県内の飲食店などの割引クーポンや、観光情報、交通の案内などを多数掲載しておりますので、上手く活用していただき、鳥取の思い出を作っていただければと思います。
また、開催期間中は、ご当地のおいしいものだとか、お土産物などを販売するフェアも併催し、お越しになられた方々が、鳥取の海の幸、山の幸、里の幸を存分に味わっていただけるように、我々としても万全の準備を整えます。
鳥取県は、蟹の水揚げ量が日本一です。ちょうど今はベニズワイガニのシーズンです。一番有名なのは松葉がにというズワイガニで、11月6日から漁が始まります。ねんりんピックは10月22日に終わるので、少し間に合わないような気もしますが、何も慌てて帰らなくてもいいのではないかなと思っています(笑)。県内には、10の温泉地もございますので、ぜひそうした地で、秋が深まりゆく鳥取県を楽しんでいただければと思います。
鳥取県は、この時期、蟹取県に改名をいたします。「蟹取県へウェルカニ」。
――「子育て王国」建国を宣言した背景や経緯を教えて下さい。
私が初めて知事に就任したのは2007年ですが、その翌年に県内の合計特殊出生率が過去最低の1・43にまで下がりました。知事になった途端、そうした問題に直面することになったのです。県として、これまで子育て政策にあまり熱心に取り組んでこなかったことがあったと思います。
ただ、それは国もそうですし、どこの自治体でも同じなのですが、子育て政策はお金をかけても成果が出にくいため、なかなか事業化がされなかったのです。ですので、ずっと足踏みしたままの状態を革命的に変える必要がありました。
当時、県庁の中でも散々議論しましたが、県内の子育ての環境自体が悪いわけではありませんでした。例えば、シルバー世代の方々が、しっかりと子育てに関わっている。子どもを遊ばせようと思ったら、自然豊かな野山が身近なところにありますし、日本一広い砂場もあります(笑)。また、子どもを村のみんなで見守るといった、昔ながらのコミュニティも残っている。ただ、合計特殊出生率が下がってきているので、この原因を分析して、有効な対策を展開していかなければなりません。そこで、「子育て王国」建国を宣言し、県をあげて子育てを応援していくことを決めました。
――まずは子育てに対する県民の意識を変える必要があったのですね。
そうです。そして、具体的な政策として、小学校や中学校で少人数学級の実現に取り組んだり、育児のための休暇を取りやすくする企業向けの「ファミリーサポート休暇等取得促進奨励金」の創設や子どもの居場所づくりなど、色々なことに取り組みました。
さらに14年には思い切って、中山間地域の市町村の保育料を無償化することにしました。最初にそれを実現したのが若桜町という町ですが、保育料を完全無償化するのにかかった予算は、わずか900万円でした。そのうち半分は県が負担するので、実質450万円で無償化できたわけです。理由は子どもが少ないからなのですが、保育料の無償化は、中山間地域のような、人口が少なく、予算が潤沢ではない自治体でも、〝踏み出せる政策〞だったのです。
――規模が小さいことがデメリットではなく、メリットなわけですね。
そうです。しかも、政策効果が非常に高くて、例えば、子どもの声が聞こえなくなった集落に、若い世代が一世帯でも入ってくるようになると、それだけで、村社会の活性化や防災面の強化につながったりするわけです。そうしたことで、あっという間に、県内の中山間地で保育料の無償化が広がっていきました。
その後、都市部でも実施するべきだという話になり、鳥取県では、翌年から所得制限を設けず、第三子以降の保育料を全額無償化にしました。今でこそ、全国で同様の取組を行う自治体も増えてきていますが、鳥取県では10年前から無償化に取り組んできたのです。
――子育て政策は成果が出るのに時間がかかるので、できるだけ早く取り組むことが大事ですね。
それから、鳥取県では子どもの医療費の助成についても、11年に中学生まで拡大し、今年4月からは高校生まで完全無償化を実現させました。都道府県全域を対象に、所得制限を設けず、全額無償化するのは、全国でも例の少ない取組になります。
そのほか、不妊治療の必要な人が早い段階で治療に取り組むことができるように、不妊症の診断に必要な検査の費用を助成したり、保険適用外の着床前診断の助成を行ったりなど、不妊治療に対する助成を大幅に拡充させてきました。
小さい県ですので、市町村や不妊治療に携わる先生とも風通し良くコミュニケーションをとりながらこうした取組を続けてきた結果、一昨年は合計特殊出生率が1・60まで回復し、出生数が全国で減少する中、鳥取県だけが唯一プラスに転じました。増えたのは第3子以降の出生や40代以上の世代の出産であり、私たちも子育て政策に手応えや、やり甲斐を感じています。
――少子化傾向に歯止めをかけるために、さらにどんな対策が必要ですか。
現在は、「シン・子育て王国とっとり計画」をとりまとめ、男性の育児休業取得率を、25年までに85%に引き上げることや、企業や地域の団体が子育てを応援する「とっとり子育てプレミアムパートナー」制度、カップル倍増を掲げた出会い・結婚の応援などを進めています。異世代の交流は子どもの成長と脳の発達に役立ちますし、夫婦だけでなくシルバー世代も含め、いろんな人たちが関わる子育ての姿を鳥取県は目指したいと思っています。
さらに「シン・子育て王国とっとり運動」として、子どもや若者、子育て中の方など、当事者の意見を聞く取組も始めています。例えば、高校生からは「勉強できる場が足りない」という意見があったので、公共施設のスペースを開放したり、民間企業にもそうした場を提供してもらったりしています。これまでは、若い人たちが上手く政治に参加できていないと感じていましたので、こうした取組が、新しいデモクラシーのあり方になるのではないかと期待をしています。
――最後にねんりんピックの大会会長として、参加者の皆さんにメッセージをお願いします。
私どもとしては、「ようこそ、ようこそ」の精神で、おもてなしをさせていただきます。この「ようこそ、ようこそ」というのは、「因幡の源左」という我々の先人の口癖でして、方言で「ありがとう」という感謝の心と、「よくいらっしゃいました」という歓迎の意を表しています。
それから鳥取県は、「梨の王国」でありまして、今回、「おもて〝梨〞パスポート」というものを作成し、これをねんりんピックに参加する全選手団にお送りさせていただいています。パスポートには、県内の飲食店などの割引クーポンや、観光情報、交通の案内などを多数掲載しておりますので、上手く活用していただき、鳥取の思い出を作っていただければと思います。
また、開催期間中は、ご当地のおいしいものだとか、お土産物などを販売するフェアも併催し、お越しになられた方々が、鳥取の海の幸、山の幸、里の幸を存分に味わっていただけるように、我々としても万全の準備を整えます。
鳥取県は、蟹の水揚げ量が日本一です。ちょうど今はベニズワイガニのシーズンです。一番有名なのは松葉がにというズワイガニで、11月6日から漁が始まります。ねんりんピックは10月22日に終わるので、少し間に合わないような気もしますが、何も慌てて帰らなくてもいいのではないかなと思っています(笑)。県内には、10の温泉地もございますので、ぜひそうした地で、秋が深まりゆく鳥取県を楽しんでいただければと思います。
鳥取県は、この時期、蟹取県に改名をいたします。「蟹取県へウェルカニ」。