連載《プリズム》

「砂漠に水を撒くような話」

高齢者が主役のスポーツ・文化の祭典「全国健康福祉祭(ねんりんピック)」が、10月19〜22日、鳥取県で開催される。

▼今大会のテーマは「咲かせよう砂丘に長寿と笑みの花」。深まりゆく秋の鳥取で、19市町村で29種目の競技・イベントが盛大に繰り広げられる。

▼鳥取県という地名は、かつて水鳥を捕らえる鳥取部(とりとりべ)と呼ばれた人々が、この地域に住んでいたことにちなんでいる。江戸時代には、三十二万石を誇る山陰地方の大藩として栄えたが、廃藩置県の5年後に、島根県の一部として一方的に合併される受難の歴史を持つ。その後、鳥取県の再建を願う地元の人たちの熱意と働きかけにより、明治14年9月12日に現在の鳥取県が誕生した。

▼県政誕生から150年余り。鳥取県はいま、再びの危機に立たされている。人口減少の問題である。10年前に日本創生会議が発表したレポートでは、県内19市町村のうち13町が「消滅可能性都市」に指定され、2016年からは人口減少に伴い、参議院の選挙区が島根県との合同選挙区に改められた。少子高齢化の波はとどまることを知らず、「静かなる有事」として、県政の先行きに暗い影を落とす。

▼ただ、こうした状況に対し、鳥取県は「子育て王国とっとり」を宣言し、全国に先駆けて、保育料や小児医療費の無償化など、新しい子育て政策に次々と取り組んできた。結果、22年の合計特殊出生率は1・60となり、全国平均の1・26を大きく上回るだけでなく、全国で唯一、出生率がプラスに転じる特異な現象を引き起こした。「砂漠に水を撒くような話」と、かつては敬遠された子育て政策で、結果の芽が出たのである。

▼一方の高齢化問題で、カギとなるのは介護予防や健康寿命の延伸であろう。
こちらも政策として結果を出すのは簡単なことではない。ただ、6年ぶりにまとめられた政府の「高齢社会対策大綱」では、高齢者の体力的な若返りが指摘されており、新たな高齢期像を志向すべき時代の到来を予言している。鳥取県で開かれる「ねんりんピック」に、その答えやヒントがあることは間違いない。

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