連載《プリズム》

賽は投げられた

 紀元前49年、古代ローマの英雄ジュリアス・シーザーは、国境を流れる小さな川を前に思い悩んでいた。

 軍を従えたまま、その川を渡ることは固く禁じられており、本国への反逆を意味する。しかし、対立勢力を討つためには、その禁を破らなければならない。やがて有名な「賽は投げられた」の言葉とともに、シーザーは川を渡る決断を下し、ローマの歴史を動かした。この一幕は、後戻りができないような重大な決断を下すことを意味する「ルビコン川を渡る」の語源となっている。

▼2024年度の介護報酬改定で、厚労省はテクノロジーの活用などで、生産性向上に先進的に取り組む特定施設に対し、人員配置基準をこれまでの「3対1」から「3対0.9」まで緩和する見直しを行った。これは見方によれば、人間をロボットなどのテクノロジーに置き換えていく見直しであり、現場からは「安全性やサービスの質低下が懸念される」など反対意見も多い。それでも、覚悟を決めて「ルビコン川」を渡ったのは、これから先、生産年齢人口が急減していく中で、人手不足の難題を克服していくための決意の表れであろう。

▼テクノロジーの活用による人員配置基準の緩和は、老健や短期入所療養介護の夜間帯や、グループホームの夜間体制支援加算などでも行われている。「賽は投げられた」のである。大事なのは、好む・好まざるにかかわらず、「テクノロジーを活用して、いかに職員の負担軽減や介護サービスの質向上を実現できるか」という改定に込められたメッセージを読み解くことだ。こうした取組が介護現場に上手く広がっていくかどうかが介護保険制度だけでなく、日本の将来を左右するといっても過言ではない。

▼介護保険が始まった当時、一人1台スマートフォンを所有して、それを仕事で活用する時代が来ることを予想できた人はいない。

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