連載《プリズム》

伝えることの大切さ

今年のノーベル平和賞に、被爆者の立場から核兵器の廃絶を訴えてきた「日本原水爆被害者団体協議会」(被団協)が選ばれた。ノーベル委員会は、発表の中で「被団協のたゆまぬ努力によって、核兵器の使用は人道的に許されないとする『核のタブー』の規範が成立した」と授賞理由を説明し、長年にわたる活動を称えた。被爆者たちの痛みと願いが世界に認められた証明であり、人類の平和にとって、今回の受賞が持つ意味は測り知れない。

 被団協は、アメリカによる太平洋ビキニ環礁の水爆実験を機に、原水爆禁止運動が広がり、1956年に結成された。原点にあるのは言うまでもなく、広島・長崎の原爆体験である。結成宣言には、「あの瞬間に無残な死をとげ、また、その後のろうべき原爆症でつぎつぎに死んでいった三十数万の父や母、息子や娘、夫や妻たちの声なき声に代って、私たちの体験をとおして人類の危機を救おうという決意を誓い合った」と記されている。その後、幾千にもおよぶ証言を集め、国連をはじめ世界中の平和会議に代表団を送り、核兵器廃絶を訴え続けた。やがて「ヒバクシャ」は世界に通じる言葉となり、この80年間、核兵器が戦争で使われた事実は1度もない。

 偉業を成し遂げた被団協だが、大きな課題も抱えている。高齢化の問題だ。厚労省によると、被爆者手帳を持つ人の平均年齢は85.58歳に達し、人数は1980年度末の37万2264人から10万6825人まで減少している。ノーベル委員会も「いつの日か歴史の証人としてのヒバクシャは、われわれの中からいなくなる」と言及したが、こうも述べた。「記憶を留めるという強い文化と継続的な取組により、日本の若い世代は被爆者の経験とメッセージを継承している」と。新聞記者のひとりとして、伝えることの大切さと向き合いたい。

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