連載《プリズム》

黙っていることは認めること

黙っていることは認めること

 日本の高齢社会を根底から支えている社会保障制度は大改革中。にもかかわらず、選挙争点にもならないまま7月10日、参院選が終わった。(プリズム2016年8月)

 少子高齢化に真正面から挑み、子育て支援、介護離職ゼロをめざす「一億総活躍社会」の旗印のもとで、年金生活者に配られた3万円の臨時福祉給付金も功を奏したのか。与党であることの強みを最大限活かした自民・公明が議席を増やした。

 しかし衣の下から、昨年12月、社会保障改革論議を経て、改革工程表の策定にまで落とし込まれた給付と負担の論議が、いよいよ始まった。

 7月20日の社会保障審議会介護保険部会で、「軽度者への支援のあり方」と「福祉用具・住宅改修」が俎上に載った。介護人材不足の中で、訪問介護の生活援助をどうするか。デイと訪問介護以外の予防サービスを市町村事業化するのか。また用具については、アセスメント時の地域ケア会議の活用、利用者負担のあり方、外れ値の是正や適切な価格の用具を選択できる仕組み、貸与と販売の対象種目、住宅改修の最適化が、今後の論点に掲げられた。次回は、現在1割負担(上位所得者2割)の利用者負担を見直すかどうかの検討も始まる。

 介護保険部会での本格的な論戦は9月以降になる。それまでの間、高く上げられたこのアドバルーンに、国民や介護保険事業者、保険者などのステークホルダー(利害関係者)はどう動くのか。政府は固唾をのんでいる。提起された給付抑制策に各委員が慎重な発言をしたからと言って、それで決まる訳ではない。介護保険部会の委員の発言は重要だが、これは各業界の代表者の意見である。その方向で集約が図られるとは限らない。

 政治の世界では、黙っていることは、そうした方向での見直しを認めたことになるというのが習わし。決まった後からでは、何を言っても遅いのである。任せておいたら、それでよいと思う我々日本人だが、それでは超高齢社会を乗り越えて行くことはできない。

(シルバー産業新聞2016年8月10日号)

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