連載《プリズム》

尊厳を守る福祉/尊厳を奪う戦争

尊厳を守る福祉/尊厳を奪う戦争

 選挙で選ばれた政権が戦争のできる国に変えるよう閣議決定した。憲法9条のたががあるから大丈夫、戦争はしない、できない、と多くの国民は思っている。ほんとうにそれで安心か。(プリズム2014年7月)

 戦後の社会福祉は、傷痍軍人や引揚者、戦争孤児など戦争に伴う生活困窮者の救済から始まった。1946(昭和21)年に生活保護法、47年に児童福祉法、49年に身体障害者法が成立した。戦争は弱者を痛めつけ、新たな弱者をつくる。戦争と社会福祉の関係は切っても切れない。戦争になれば、国益が個人の幸せに優先し、自由は抑庄される。人々傷つき、親をなくし子をなくす。社会福祉はそれを繕おうとするが、すでに失われてしまった生命や尊厳は返ってこない。

 憲法前文で曰本国民は2つの決意をした。「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにする」決意、そして「恒久の平和を念顧し、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」という決意だ。焼け野原の中で、日本はこの崇高な理想を受入れ、その自的を達成することを誓った。憲法9条のもとで、自衛隊は人に向けて引き金を引くことはなかった。

 気がつくと、日本は集団的自衛権の行使を容認する国になろうとしている。それは、アメリカなど他国の戦争に日本が参戦することを意味する。だれが銃をもつのか。高齢者や障がい者の自立支援に携わろうと社会福祉を志した、あなた自身かも知れない。戦争になれば、社会は暗黙に人の口を閉ざさせる。助長される死への不安が、温かい血の通ったあなたを鬼に化す。死を免れても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむかも知れない。

 06年の介護保険法改正で、第1条の自的に「尊厳の保持」が加えられた。尊厳は、自分らしく生きることだ。同じく06年には、介護予防が前面に打ち出された。尊厳の保持も介護予防も、放っておけば、失われてしまうフレイルな存在だ。平和に通じる気がする。日々の努力が実を結ぶ。殺してはいけないし、殺されたくもない。社会福祉がまたも戦争の尻ぬぐい役を務めることのないように。

(シルバー産業新聞2014年7月10日号)

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