生き活きケア

要介護者、コンビニで働く/やすらぎの森 前原(船橋市)

要介護者、コンビニで働く/やすらぎの森 前原(船橋市)

 6月に開設した地域密着型通所介護「やすらぎの森 前原」は、利用者がコンビニエンスストアで働く「有償ボランティア」を実施している。

3回 1000 円の有償ボランティア

 陳列や清掃など多様なコンビニ業務の中から、デイ職員がリアルタイムで心身状況を観察し業務を指示・サポート。受け取った謝礼でそのまま買い物もできる。活動・社会参加の要素を大いに盛り込んだ機能訓練として提供している。

日中活動に 「働く」 選択肢

 同事業所のコンセプトは「選択」。朝、デイに到着すると、その日の過ごし方や活動は利用者が自ら選ぶ。食事も決まった献立はなく、皆で調理するも、外食するも本人の自由。入浴も希望があればいつでも対応可能としている。

 そして、活動の看板メニューの一つが有償ボランティア。JR船橋駅近くの「セブンイレブン船橋駅南口店」でおよそ1時間、清掃や商品陳列、検品等の作業を行う。3回働くと、セブングループの店舗で使える1000円分の商品券がもらえる。お釣りが出るので、仕事終わりに昼食の弁当を商品券で買ってデイに戻る利用者もいるそうだ。

 仕事中はデイの職員が付き添い、体調や身体状況などに配慮しつつ作業をサポート。デイ管理者の山田透氏は「まずは安全面が第一。例えば、前半は陳列などの立ち仕事、疲れてくる後半は座って行える備品清掃といったふうに、時間帯で工夫しています」と話す。

 有償ボランティアは介護サービスの一部であり、機能訓練として実施しており、船橋市の介護保険課も了解済。デイを運営するサンクスケアサービスの森重貴之社長は「ケアマネジャーの反応も総じて良く、ケアプランにも明記していただいています」と述べる。

 8月現在、同デイでは5人の利用者が有償ボランティアに参加。川下昌子さん(81歳・要介護3)は週3日のデイ利用のうち2日働く。陳列棚の商品を最前面に出す「フェイスアップ」や清掃などを主に担う。

 作業にも徐々に慣れてきたと話す川下さん。お客さんに声をかけられることもたまにあるそうだ。
 「つらさは全く感じない。何もせず座っているより、やりがいがあります」と笑顔で話し、山田さんの2倍のスピードでカゴを拭く。

 普段使っている杖を使わずに現場に入るのも驚き。森重社長は「他の参加者にも共通していますが、働く場を提供することで『自分が必要とされている』という気持ちのスイッチが入るのでしょう。有償ボランティアに参加する前と後では表情や雰囲気が変わります」と説明する。
 勤務回数の記録カードを手にする川下昌子さん

 勤務回数の記録カードを手にする川下昌子さん

「地域貢献」 とベストミックス

 セブンイレブン船橋駅南口店は、船橋市の土地を活用した全国初「官民共同コンビニ」として2016年にオープン。店内には市の物産・観光情報、地元のプロスポーツチームなどを紹介する一角が設けられている。

 また、市の紹介を受け、これまで65歳以上の高齢者も8人雇用。こうした地域拠点・地域貢献の理念が、今回のプロジェクトへ協力した理由でもあると、同店舗を運営するホエルの鯨井祐介社長は語る。

 「コンビニは業務が年々複雑化しています。そのため人材が定着しにくい状況。正直、今まで働き手として要介護の人は頭にありませんでしたが、業務の範囲をある程度絞り込めば、十分戦力になり助かっています」。今後は障がい者雇用にも取り組んでいくそうだ。
 手際よくカゴを清掃

 手際よくカゴを清掃

適切な対価を

 プロジェクトのアドバイザーとして関わるのは、「DAYS BLG!」(東京都町田市、地域密着型通所介護)の佐藤亜美さん。「社会とのつながりは介護予防、要介護度改善も期待できます。有償ボランティアはその一つ。介護の外の世界、社会へ目を向けて新たな価値を生み出す介護を広めたい」と意気込む。

 「BLG!」は有償ボランティアの先駆的事業所。その仕事内容は▽野菜の配達▽カーディーラーでの洗車▽文具メーカーでのボールペン袋詰め▽コミュニティ情報誌のポスティング――など多岐にわたる。

 佐藤さんは、社会参加活動として有償ボランティアが認められてからも、取組む現場、受入れ企業がほとんど進んでいない現状を指摘する。「まずは賃金(謝礼)改善から取組む必要があります。1回100円など低価格のところも多い。働くことが社会参加ならば、その働き・意欲に見合う対価でなければなりません」
 働く船橋駅南口店は市の情報発信地(左端:森重社長、右端:佐藤さん)

 働く船橋駅南口店は市の情報発信地(左端:森重社長、右端:佐藤さん)

(シルバー産業新聞2020年9月10日)

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