現場最前線の今

発達障害支援をめぐるこれからの20年/中山清司(連載155)

発達障害支援をめぐるこれからの20年/中山清司(連載155)

 1980年代以降の自閉症専門施設の開設ラッシュに伴い、強度行動障害の問題がクローズアップされ、それが今に至っていることを、この連載の中で整理しているところです。

 今回は少し視点を変えて、「発達障害支援をめぐるこれからの20年」を考えてみたいと思います。

 発達障害のある人の支援を国が本格的に取り組み始めたのは、2004年12月成立、2005年4月施行の「発達障害者支援法」からです。同時期、教育の分野では、高機能自閉症やADHD・LD の子どもたちも含めた「特別支援教育」がスタートします。

 それから約15年がたち、現在、社会における発達障害に対する認知・理解は確実に広がり、各現場における支援体制も以前にまして充実してきたことは間違いありません。

 その一方で、発達障害支援を取り巻く領域はさらに広がり、多様化・複雑化している状況もみてとれます。つまり、社会的な啓発と公的な支援サービスは充実してきたが、そのスピードをはるかに超えて発達障害支援に対するニーズは大きくなっている、というのが筆者の見立てです。

 そのため、個々の当事者・家族・身近な人たちからすれば、「私たちは孤立している」「今も適切な支援が受けられない」「もっと行政や支援機関は積極的に対応してほしい」といった不満や期待外れの感情を持たれてしまうことがあるかもしれません。時には、その思いを、現場最前線にいる担当支援者に直接ぶつけてこられる事案もよく見聞きします。しかしながら、発達障害支援を取り巻く状況を考えると、担当支援者に求めるだけでは問題解決はますます遠のくように思っています。

 発達障害の概念、それは典型的な定型発達のモデルに比して、特有の発達の凸凹・偏りを捉えるわけですが、実際そのような人たちが社会に幅広くスペクトラムに分布しています。そのような発達の凸凹・偏りのある方々の中には、特別な支援がなくても日常生活を滞りなく送られている人がおられますし、一方で、適切な理解や支援のないまま引きこもりや行動障害の状態にある方々も多くいるわけです。

 たとえて言いますと、アレルギー性の呼吸器疾患のある人がいて(筆者がその例です)、いつもちょっとした鼻炎でいる場合もあれば、重度の肺炎や気管支ぜんそくになってしまって入院治療が必要な場合まで、さまざまなケースがあるのと状況はよく似ています。

 つまり、発達障害の支援には、日常生活における周囲・ご自身の理解と配慮、そして日々の工夫と心がけがまず基本にあって、しかしながら日常生活が困難になったり、二次的な精神疾患などの状態になってしまわれる事案を想定して、その予防と効果的な対応について公的な支援サービスを活用する必要があります。

 目の前にいる担当支援者は、そのサービス提供チームの一人にすぎません。彼/彼女たちが魔法のようなスキルをもっている訳ではないし、そのサービス提供チームが一人ひとりのニーズをすべてかなえるような解決策を提供できるものでもありません。

 これからの20年を考えると、発達障害支援は、発達の凸凹・偏りのある人たちの自立や社会参加をテーマに、当事者・家族・身近な人たちの日々の実践と、公的支援サービスとの組み合わせが、より有効に機能するかどうかが問われているように思います。かねてより指摘していますが、我が国は少子高齢化のトレンドにあって、労働人口はますます減少していきます。職業人として発達障害に携わる支援者の確保も難しくなってきました。

 当事者・家族・身近な人々が担当支援者・担当支援チームを積極的に活用してそれぞれの生活の質を高めていかれると同時に、担当支援者・担当支援チームがこの仕事に携わる意義を感じ日々の支援に取り組めていかれるように、両者の協力関係を再構築していくことが、これからの20年の重要な課題かと思います。

NPO法人自閉症eスタイルジャパン 理事長 中山清司

(シルバー産業新聞2020年3月10日号)

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