未来のケアマネジャー

未来のケアマネジャー82 アンケート調査に協力することも制度・利用者を守ることに繋がる

未来のケアマネジャー82 アンケート調査に協力することも制度・利用者を守ることに繋がる

 厚生労働省は、令和6年度改定において一部の福祉用具で導入された貸与と販売の選択制に関する実態調査を行っている。調査を行うことは「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告」に明記されていたので、予定通りである。この調査の実施目的には、令和6年度から新たに導入された制度の実態や課題を把握し、次期改正の議論をするためのデータ(議論の材料)にすることがある。

 それ以外にも国の調査は、次期制度改正に向けてさまざま予定されている。調査に協力する立場からは、忙しさに追い打ちをかけるようなことはやめてほしいという本音もある。しかし、次期改正に向けた影響度を考慮すると、協力しておくのが望ましいだろう。ほとんどの調査協力は任意である。だから自分ひとりが回答しなくても、たいして全体には影響ないと思いがちだ。本当にそうだろうか。

 アンケート調査は、1件1件の回答の総体である。回収数が多ければ安定した結果を得られる。少なければ偏った結果となりやすい。例えば、そのテーマに関心があって、言いたいことがある人ばかりが回答すると、特殊な例が多く集まってしまう。それを全国の介護の実態として良いだろうか。

 国が実態調査をするのは、現場の実態を踏まえて次のことを検討するためである。実態とは異なるゆがんだデータからは、ゆがんだ予測しか生成できない。日々、がんばっているケアマネジャーをはじめとする専門職の行動を、3年に1度しかないアンケート調査の回答に載せて語らせよう。理想だと揶揄されるかもしれない。しかし、制度は利用者にとって利用可能な大切な環境の一つである。制度改正に影響するアンケートへの参加は、ケアマネジャーの活動の究極の目的である利用者支援と同じ意味を持つ。

 筆者は制度改正を考えるとき「制度の壁穴が開かないか」用心深く見るように心がけている。壁穴が開くとは、原則が崩れることを意味する。これまでにもいくつかの壁穴が開くのを見てきた。「一部の福祉用具の選択制」もその一つだ。介護保険制度創設時の原点に立ち返ると、販売物品以外は貸与が基本だった。その原則に「一部の福祉用具選択制」として、ちょっとだけ穴が開けられた。本当に開けてもよい穴だったのか。それともすぐに閉じる工事が必要か。何もしなければ穴はどんどん広がっていく。言い換えれば、福祉用具は一部選択制ではなく、全部選択制になっていくかもしれない。今から閉じるには難易度の高い工事だが、今のタイミングを逃せば、今後はもっと難しくなる。

 「一部の福祉用具」の穴は、穴を開ける検討をしていた時点、つまり前回改正の議論の段階で、将来の想定はできたことだ。それは国が決めた、というよりも関係団体の合意である。このような経緯を認識すれば、現場としてアンケート調査に無関心ではいられない。無回答は、制度への意見を放棄し、他者に一任する行為に近い。

 ケアマネジメント関連で開いた穴はあるのか。実は前回改定だけでも複数の壁穴が開いた。人材不足でやむをえず、運営基準で介護支援専門員一人あたりの担当件数が引上げられたほか、オンラインモニタリングの導入に伴う要件として他のサービスから情報を得ることで良しとされた。「オンラインモニタリングなんて、実行件数は少ないから関係ない」と考えるのは誤りである。既に「仕組み」は変更された。専門性の中核をなすケアマネジメントプロセスの一つであるモニタリングは法定業務であり、本来、行わなければ運営基準減算の対象となるほどに重要である。

 居宅介護支援の基本報酬の構造は、ケアマネジメントプロセスを実行する手間に対する評価である。それでは、ケアマネジメントプロセスの簡略化、他者への基本業務の切り出しは、自らの専門性と、その評価である基本報酬を守る行動なのか。

 制度の仕組み、報酬構造等を理解することは、利用者への責任を果たすために専門職にとって不可欠である。アンケート調査への参加もまた、制度環境を守っていくための利用者支援の一つである。

(シルバー産業新聞2025年10月10日号)

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