未来のケアマネジャー

共有していますか? 利用者の意向 /石山麗子(連載6)

共有していますか? 利用者の意向 /石山麗子(連載6)

 意思決定支援、皆さんはどこまで意識されているだろうか。これはケアマネジャーが行う利用者支援の中核だ。だからこそ『利用者の生活に対する意向』は特に重視される。どれほど重要かは、ケアプランの様式をみれば一目瞭然だ。1~6表まであるケアプラン様式のうち、『利用者の生活に対する意向』は(基本情報を除き)ケアプラン1表の最初に位置する。まさにケアマネジメントの1丁目1番地といえる。ケアマネジャーは『利用者の生活に対する意向』をいかに正確に「聴き」取れるか。誰にもわかるよう簡潔に「記述」できるか。それを関係者に責任をもって「伝え」、共有(理解)できるか。これが実行されたときにようやく支援のスタートラインに立ったといえるだろう。

 厚生労働省の全国調査によれば、ケアマネジャーが入院医療機関に対し「利用者の入院前の生活に対する意向」を伝えている比率は約4割(表)、一方で医療機関の約7割がケアマネジャーからの情報提供を期待していることがわかった。ケアマネジャーが思うよりも医療機関ははるかに「入院前の生活に対する意向」に関心をもっているようだ。適切な情報提供にあたり、家族の理解や協力も欠かせない。「世帯構成」、「キーパーソン」、「介護力」の情報提供の割合も同様に入院医療機関の期待値より実際にケアマネジャーから提供される割合は低い。
 なぜこのような状況が起きるのか。推察だが①ケアマネジャーに利用者の生活に対する意向は居宅サービス計画に基づいてサービスを提供する人だけが知っていればよいという思い込みがある②医療機関では生活面よりADLや直接ケアに関わる項目を重要視しているとの思い込み③医療機関の利用者の生活に対する意向の関心度の高さを知らなかった④入院時情報連携加算を算定しない場合ケアマネジャーは入院医療機関へ情報提供する義務はないと考えている――といったところだろうか。

 要介護の原因疾患の最上位は認知症、世帯類型では単独世帯が上位となった今日、本人自ら入院前の情報を伝えられない方は増加している。たとえ入院し治療が必要でも利用者が望む生活や、価値観は大きく変わるものではない。もし変わっているとしたらそれは「あきらめ」もあるのではないか。確認が必要だ。

 退院時に意向を確認するのだから入院前の意向など不要だと考える人がいるかもしれない。退院時の意向は誰が確認するのか?それは入院時から既に始まっているが、院内の職員で構成するカンファレンスにケアマネジャーは参加できない。だからこそ医療機関の職員は利用者の生活に対する意向を理解しておく必要があることから情報提供を期待しているのだ。中には在宅復帰をせず転院したり、サ高住等へ入居することもある。

 そうなれば次の機関にバトンを繋ぐのは医療機関の職員となる。仮に在宅復帰するとしても同じケアマネジャーが担当できる保証はない。入院時にはケアマネジャーが持っている必要な情報を適切に伝え、バトンタッチをすること。適切な「情報の流れ」を分断しないこと、これが連携のポイントだ。

 ケアマネジャーは入院時情報連携加算の算定いかんにかかわらず医療機関に情報提供するのが役割だ。医療との連携は法律と運営基準の両方に規定される重要な事項だ。情報共有等の連携を行うことは大前提であり、それを基本としつつ、連携がより迅速で詳細な情報まで提供する場合にそれを加算として評価する仕組みになっていると解釈している。

 ケアマネジャーが行う支援の中核は利用者の意思決定支援だ。ベースとなるのは「利用者の生活に対する意向」だが当然ながらケアマネジャー一人で意思決定支援や療養支援はできない。聴く、書く、伝える。あなたは「利用者の生活に対する意向」を共有できていますか。

 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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