未来のケアマネジャー

私たちの活動実態を社会に示そう/石山麗子(連載5)

私たちの活動実態を社会に示そう/石山麗子(連載5)

  ケアマネジャーに対しての評価は、的を射たものもあれば実態と乖離した指摘もある。反論したいが、客観的なデータが無いために大半は反論に至らない。他の職種に比べてケアマネジャーは批判されやすい。その理由は複数あるが、一つに理解されにくい業務実態があげられる。利用者に直接触れるケアとは違って相談を基本とする業務は目にみえにくい。だからこそ、まず私たちはその特性を自覚・意図して自分たちの業務に対する理解を深めてもらうよう説明に心を砕き、数値化して伝える手間を惜しんではならない。私たちの仕事は尊く価値あるものだ。そしてケアマネジャーは私にとって家族同然の存在だ。だから今回は敢えて厳しい内容を書こうと決心した。どうぞ気を悪くしないで最後まで読んでほしい。

 第170回社会保障審議会介護給付費分科会(4月10日)では「2018年度介護報酬改定の効果検証及び調査結果に係る調査(18年度調査)の結果について」が報告された。いわゆる「改定検証」だ。

 この調査をご存知だろうか。厚生労働省が報酬改定の影響を全国調査し、私たちの業務実態を明らかにするものだ。この調査で得られたデータは社会保障審議会で使用される。この審議会は次期改正に向けた議論の場である。そこに数値化された私たちの業務実態が示される。これまで「改定検証」では福祉用具、訪問介護、予防サービス、介護保険施設等、調査された対象は多岐にわたる。

 今回の改定検証をめぐり私たちケアマネジャーは『直視すべき事実』がある。『回収率』だ。回収率は調査の信頼性に関わる根幹的な要素である。さらに改定検証の回収率はそれだけでなく次期改正の議論に使用されることからも調査対象となる職種の専門職としての意識の高さも反映するものであり、評価にも当然つながる。

 表1をご覧頂きたい。居宅介護支援の改定検証の回収率になっている。15年度報酬改定(15年度調査と16年度調査)と18年度調査を比較している。さてこの結果をどうみるか。いわずもがな今回調査の回収率は著しく低い。18年度改定検証は居宅介護支援を含め7つの調査が行われ、その中でも最も低かった。

 別な視点から見てみよう。18年度改定検証の居宅介護支援事業所調査は、居宅介護支援事業所調査、介護予防支援事業所調査、医療機関調査の3種類がある。それらの回収率を表2に示した。なんと当事者である居宅介護支援のための調査にも関わらず、回収率が最も低かった。

 確かにケアマネジャーの多くはがんばっている。しかし「こんなにがんばっているのに」、「大変さを理解してもらえない」と言うだけで、社会の評価が変わるならこんなに楽なことはない。社会に対し一番理解されやすい方法として統計学的に処理した数字がある。数字に語らせること、である。

 しかし、全国調査を試みたいと思っても予算・運営の面を考えると民間での実施は難しい。厚労省が行う改定検証はそれを叶える方法だ。最近こうした仕組みは充実してきているが、仕組みが整うと、それが当たり前で誰かがやってくれると思ってしまいがちだ。そういったとき甘えは生じやすい。

 今回の回収率を客観的にみれば調査票を手にしたケアマネジャーの3/4は回答を放棄した。私一人くらい何もしなくても誰かが制度を良くしてくれる。それは甘えや幻想、専門性の放棄である。何もしなくてよい人など一人もいない。ましてや専門職であるならなおさらだ!すべてのケアマネジャーがいまの立場に責任をもち、自らの役割をしっかり遂行していくことが制度改善の一歩となる。数字は正直だ。冒頭で私が申し上げた『ケアマネジャーが直視すべき事実』とはこうしたことだ。

 10年ほど前、大森彌先生が講演で仰った言葉が忘れられない。『制度を創って10年は創った人の熱で動く。それ以降は現場の熱で動く』。ケアマネジャーの現場には熱があり、その熱で動かしていけるだけの力があると信じている。今後も改定検証をはじめさまざまな調査は行われていく。実践はとても重要であるが、同時にケアマネジャーが調査の意義や重要性を理解し、自らの業務実態を社会に理解されるよう熱を注ぐ事も大切である。結果としてこれらの取り組みが社会の評価や利用者の生活の質の向上にもつながるからである。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院教授)

(シルバー産業新聞2019年5月10日号)

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