未来のケアマネジャー

ケアマネジメントの標準化 蓄積したケアマネの叡知を集約/石山麗子(連載4)

ケアマネジメントの標準化 蓄積したケアマネの叡知を集約/石山麗子(連載4)

 「ケアマネジメントの標準化」ときいてどんなイメージを持たれるだろうか。画一化、均一化など個別性と乖離するイメージだろうか。

 ケアマネジメントの標準化(以下「標準化」という)は、ニッポン一億総活躍プランに位置付けられ10年計画で進められている。事業名は「適切なケアマネジメント手法の策定」(日本総合研究所)という。

 先に申し上げておきたい。「標準化」の手法は私たちの「実践知の共有化」である。標準化あってこそ個別性は輝く。

 「脳血管疾患の利用者への支援」と問われて思い浮かべることは?研修会場で問いかける。かえってくる答えはさまざまだ。例えばリハビリ、福祉用具貸与、住宅改修等のサービス種別を回答する方が多い。研修ではお隣の方と書いた答えを見せ合ってもらうが、答えた項目の数や内容が一致する人はほとんどいない。この様子を利用者が見たらどう思うだろうか。担当のケアマネによって提供される支援内容は違うのだ。

 一方でケアマネはケアマネごとに支援内容が異なる現状に違和感をもつだろうか。多くのケアマネは、違いは「その人らしさ(個別性)」を表現しているから生じるという。しかしこの問いのどこにも個別性に関する情報はない。なぜ違いは生じるのか。ケアマネの知識や考えのバラつきだろうか。ある情報を見たとき一定の道筋にそって判断し共通性のある解を導くのが専門職だ。それこそが専門職としての技能の証であり、信頼や安心の基盤である。

 制度施行から20年。2000年当時と社会は異なる。多職種連携の推進、AI等革新技術の導入等もあいまって保険サービスとしての質の担保、エビデンス・ベースのケアマネジメントを求める声は高まっている。

 さて先ほどの問いの答えを確認しよう。脳血管疾患の支援で最初に思い浮かべるべきは2つの方針、①再発予防、②生活機能の維持・向上だ。標準化ではこれらの方針に下位項目が複数紐づく。

 脳血管疾患の計画によく位置づけられる「環境整備」を例にみてみよう。一言で「環境整備」といっても、「生活機能の維持・向上」に向けた転倒予防の環境整備もあれば、「再発予防」を目的に気温差などに配慮する環境整備もある。脳血管疾患の標準化は、いわゆる脳卒中連携パスの維持期を担うチームが「生活支援のプロ」として行うべきことを具体化し・体系化したものである。

 標準化の始動は16年4月。厚生労働省に入省し、最初に頂いたこの仕事に私は心血を注いできた。省内で初めて標準化の実現可能性について問われた瞬間、日本のケアマネジメントの今後を左右する最も重要度の高い問いだと認識し極度に緊張した。同時に申し上げたのは「標準化は出来ない(してはならない)。」ことだ。ただし一定条件のもとで行う標準化は可能であり、その方法を理論上可能なだけ挙げ尽くした。それは統計学的な視点、実践知を基にした視点の2つのアプローチ方法だ。採用されたのは後者だった。

 「実践知」のヒントとなったのは自らの経験だ。厚労省入省直前まで社内の統括として140人のケアマネの相談を受けていた。相談の多くは課題が重層化したケースだった。それらの相談内容を聞きながら頭の中では次のように情報を振り分け分析していた。生命維持に不可欠な①基本ケア(水分・栄養摂取、排泄、歩行・移動)②疾患の管理状況③家族・社会との関係性――である。

 経験上、①と②はいずれのケースにも確認すべき共通事項があり、ある程度頭の中で体系化されていた。おそらく多くのケアマネも同じような思考過程であると思った。だからこそ標準化を検討するにあたって実践知に基づく方法なら①と②だと考えた。しかも医学的なエビデンスを活用した裏付けも可能だ。その後、標準化の概念整理と枠組づくりを当時老健局の遠藤征也介護保険指導室長と共に3カ月間整理し、老健事業(日本総合研究所)において全国のケアマネの実践知が集約・整理されてきた。したがって「標準化」は全国のケアマネの実践知の「共有化」である。

 制度施行から20年、これまで蓄積したケアマネの叡知が集約され、エビデンス・ベースのケアマネジメントが展開されることは、私たちのケアマネジメントの質の証明に繋がると確信している。ぜひ標準化の報告書を読んでほしい。

 石山麗子(国際医療福祉大学大学院教授)

 シルバー産業新聞2019年4月10日号

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