施設サービスはどう変わっていくのか
職場内の給与格差広げる 特定処遇改善加算/菊地雅洋(連載40)
2月13日の社保審・介護給付費分科会で、2019年度介護報酬改定の諮問・答申が行われた。その中で特定処遇改善加算の取得要件や配分ルール、加算率等が示された。
新加算は2段階で、単価の高い加算Ⅰの算定要件は▽サービス提供体制強化加算の高い方の区分▽特定事業所加算の従業員要件のある区分▽日常生活継続支援加算、入居継続支援加算を算定していること―が要件とされており、そのハードルは決して低いとは言えない。
サービス種別ごとに定められた加算率は、各サービスで「勤続10年以上の介護福祉士が平均でどれくらいいるか」で決められたものであり、実際にその事業所に「勤続10年以上の介護福祉士が何人いるか」で加算収入の多寡が決まるわけではない。例えば50人定員の特養で日常生活継続支援加算を算定している場合、「勤続10年以上の介護福祉士」が1人しかいない施設も、「勤続10年以上の介護福祉士が10人いる施設」も同様に2.7%の加算率を算定できる。よって経験のある介護福祉士が少ない施設の方が、高い金額を広くその他の職員に配分できる結果となる。
特定処遇加算Ⅰで加算額シミュレーションを行ってみると、100人定員特養で、居住費と食費を除く年間収入が4億2千万円と仮定した場合、月額加算額は94万5000円となる。この数字を8万円で割ると11.8125となる。つまりこの特養では最低11人に8万円の給与アップが可能となるという意味になる。
一方、特養より加算率が高い認知症対応型共同生活介護は、2ユニットで年収6千万円の場合を想定しても、月額加算は15万5000円にしかならない。つまり8万円給与アップできるのは一人しかいないことになる。
通所介護の場合はもっと悲惨で、定員が18人以下の地域密着型通所介護の場合、年間収入はせいぜい2千数百万円だから、加算額は月額で2万数千円程度にとどまる。8万円アップできる職員どころか、3万円アップできる職員さえいないのだ。
そういう意味でこの加算はあきらかに大規模事業者が有利になっており、今後給与を上げて人を集めるのも大規模事業者が有利となる。そのため小規模事業者からの人材流出が進み、小規模事業者の事業撤退にもつながりかねない構造となっている。それはまるで、スケールメリットが見込める大規模事業者を増やして、介護給付費の削減を図ろうとする国の政策の延長線上に置かれているかのようである。
問題は加算費用の配分に関して、事業種類単位ではなく法人単位での配分が認められるのかどうかということである。特定処遇改善加算の取得は事業種類単位であるが、例えば特養の場合、通所介護を併設している施設がほとんどである。しかし前述したように、この加算額は特養と通所介護ではかなりの差がある。もし法人単位の配分が認められなければ、同法人内で特養と通所介護の職員給与格差が大幅に広がってしまうことになる。そうならないためにも法人単位での配分が求められるところだが、これは現在発出されている資料で読み取ることはできないため、今後の解釈通知やQ&A等を待って解釈するしかない。
この加算によって、介護現場で働く経験10年以上の介護福祉士は、自分の月額給与が8万円アップするのではないかという期待に胸を膨らませていた人が多い。しかしこの加算の算定構造を見ると、月額8万円の給与改善の対象となるのは、一部のリーダー職員のみであり、10年以上の経験ある介護福祉士であっても、その改善額は期待額よりかなり低い額になることが予測される。その現実と期待している職員の意識のギャップを丁寧に埋めていかないと、逆にこの加算が職場の人間関係を壊して、離職が進む原因になりかねない。
サービス種別ごとに定められた加算率は、各サービスで「勤続10年以上の介護福祉士が平均でどれくらいいるか」で決められたものであり、実際にその事業所に「勤続10年以上の介護福祉士が何人いるか」で加算収入の多寡が決まるわけではない。例えば50人定員の特養で日常生活継続支援加算を算定している場合、「勤続10年以上の介護福祉士」が1人しかいない施設も、「勤続10年以上の介護福祉士が10人いる施設」も同様に2.7%の加算率を算定できる。よって経験のある介護福祉士が少ない施設の方が、高い金額を広くその他の職員に配分できる結果となる。
特定処遇加算Ⅰで加算額シミュレーションを行ってみると、100人定員特養で、居住費と食費を除く年間収入が4億2千万円と仮定した場合、月額加算額は94万5000円となる。この数字を8万円で割ると11.8125となる。つまりこの特養では最低11人に8万円の給与アップが可能となるという意味になる。
一方、特養より加算率が高い認知症対応型共同生活介護は、2ユニットで年収6千万円の場合を想定しても、月額加算は15万5000円にしかならない。つまり8万円給与アップできるのは一人しかいないことになる。
通所介護の場合はもっと悲惨で、定員が18人以下の地域密着型通所介護の場合、年間収入はせいぜい2千数百万円だから、加算額は月額で2万数千円程度にとどまる。8万円アップできる職員どころか、3万円アップできる職員さえいないのだ。
そういう意味でこの加算はあきらかに大規模事業者が有利になっており、今後給与を上げて人を集めるのも大規模事業者が有利となる。そのため小規模事業者からの人材流出が進み、小規模事業者の事業撤退にもつながりかねない構造となっている。それはまるで、スケールメリットが見込める大規模事業者を増やして、介護給付費の削減を図ろうとする国の政策の延長線上に置かれているかのようである。
問題は加算費用の配分に関して、事業種類単位ではなく法人単位での配分が認められるのかどうかということである。特定処遇改善加算の取得は事業種類単位であるが、例えば特養の場合、通所介護を併設している施設がほとんどである。しかし前述したように、この加算額は特養と通所介護ではかなりの差がある。もし法人単位の配分が認められなければ、同法人内で特養と通所介護の職員給与格差が大幅に広がってしまうことになる。そうならないためにも法人単位での配分が求められるところだが、これは現在発出されている資料で読み取ることはできないため、今後の解釈通知やQ&A等を待って解釈するしかない。
この加算によって、介護現場で働く経験10年以上の介護福祉士は、自分の月額給与が8万円アップするのではないかという期待に胸を膨らませていた人が多い。しかしこの加算の算定構造を見ると、月額8万円の給与改善の対象となるのは、一部のリーダー職員のみであり、10年以上の経験ある介護福祉士であっても、その改善額は期待額よりかなり低い額になることが予測される。その現実と期待している職員の意識のギャップを丁寧に埋めていかないと、逆にこの加算が職場の人間関係を壊して、離職が進む原因になりかねない。
また年数が10年に満たない介護職員や、その他の職種にも加算を配分するとしても、さほど大きな金額にはならず、職場全体で何らかの不満が増大する可能性さえある。特にその他の職員には年収440万円以上の職員を含むことはできないため、例えば看護職員で年収440万円以上の場合、今回の加算で給与改善を行うことはできないということになる。また常勤職員と常勤換算職員の加算配分も当然異なってくるだろう。つまり特定処遇改善加算は、職場全体の平均給与は確実に引き上げるが、それによって職場内での給与格差も確実に広げるものであるという理解が必要である。だからこそ、この加算の配分を巡って職場が空中分解しないように、事業経営者には職員に対して丁寧な説明が求められる。
そういう意味では、この加算の支給に関する一連の手続きと職員への周知に関連しては、介護事業経営者の経営能力だけではなく、真摯に事実と実態を職員に伝えるという、経営者の人間性が問われてくる問題と言えるのかもしれない。
どちらにしても事業経営者、事務担当職員等は、この問題でしばらく頭を悩まし続けなければならないだろう。
菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)
そういう意味では、この加算の支給に関する一連の手続きと職員への周知に関連しては、介護事業経営者の経営能力だけではなく、真摯に事実と実態を職員に伝えるという、経営者の人間性が問われてくる問題と言えるのかもしれない。
どちらにしても事業経営者、事務担当職員等は、この問題でしばらく頭を悩まし続けなければならないだろう。
菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)