地域力発見

「食」で地域の輪を紡ぐ 在宅栄養/宮下今日子(連載92)

「食」で地域の輪を紡ぐ 在宅栄養/宮下今日子(連載92)

 【在宅訪問の管理栄養士に聞く④ 時岡奈穂子さん】
 大阪で活動している時岡奈穂子さんは、2013年に管理栄養士らと任意団体を立ち上げ、現在はNPO法人はみんぐ南河内(羽曳野市)、日本栄養士会認定の認定栄養ケア・ステーションの代表を務める。スタッフは総勢11人の管理栄養士。

総合事業C型で6自治体に関わる

 地域ケア会議は在宅で
 予防事業で栄養支援に悩む自治体が多い中、同法人は現在、6自治体の総合事業C型に関わっている(藤井寺市・羽曳野市・富田林市・河内長野市・太子町・河南町。うち4自治体が法人受託)。16年に富田林市の高齢介護課から自立支援型地域ケア会議で助言して欲しいと依頼され、会議に出てみると、栄養アセスメントをすべきケースがたくさんあり「すぐに訪問させて!」と手を挙げたそうだ。
 その後、会議を積み重ねて、現場に出ていく必要性が次第に理解され、総合事業C型が立ち上がった。その後、近隣の自治体もこれに注目し、ケア会議を傍聴するなどを経て総合事業C型を始めたそうだ。
 中でも藤井寺市の地域ケア会議は画期的。65歳以上の高齢者を対象に初回に配布される基本チェックリストで、そのうち栄養2項目に該当した人は地域ケア会議の対象者になる。
 しかし、会議は会議室ではなく、そのまま本人の自宅で行われる。ケアマネや包括の職員と一緒に、リハ職や管理栄養士が同行訪問し、専門的な目でアセスメントする。会議が会議のままで終わらないから実践に繋がっている。
 藤井寺市の介護予防事業
 要支援前から介護予防に取組む同市の事業は「いきいき笑顔応援プロジェクト」との名称で、厚労省も表彰している。
 医療的管理の必要な人(入退院後の嚥下障害など)、糖尿病などの生活習慣病、低栄養やフレイルなどの状態を把握し、必要に応じて、短期集中のC型や居宅療養管理指導に繋げるなど、セルフケアの視点を重視している。短期間で終わりではなく、再発も視野に、人もケアも途切れない仕組みができている。
 実際、初回と支援後の結果を検証すると、セルフケアの実行期が増え、明らかな行動変容が見られ、利用者の栄養への認識に変化が見られている。

楽しくおいしく食べるワザ

 「幸せの黄色い紐」でセルフケア促す
 セルフケアに繋げる用具として、時岡さんは幸せの黄色いハンカチにちなみ、「幸せの黄色い紐」(写真)を地域に配っている。大阪人らしいユーモアだそうだ。
 コロナ禍で利用控えが起きた時、在宅の利用者にこの紐を渡した。ふくらはぎに巻くと低栄養かを自分で判断できるので、本人のセルフケアにも繋がる。月2回のケアが1回になった人もいたそうだ。
 ふくらはぎを測る “幸せの黄色い紐”

 ふくらはぎを測る “幸せの黄色い紐”

 栄養アドバイスの着眼点
 栄養士のアドバイス例を挙げてみる。80代男性のBさんは、脳梗塞を2回患い、糖尿病で血管がボロボロ。要支援2だが、日常は畑仕事をしている。しかし、身体を使っていても筋肉量は少ない。それは食事内容に課題があるからで、「食事と活動量がリンクしているという気づきが大事」と指摘する。70代の女性Hさんは、毎月体重が300gずつ落ちている。ケアマネも食べるように勧めるが困り果てている。「ご飯を毎食、ひと口でいいから増やす。温泉卵を加えたり、食べやすいものを提案する」と指摘する。
 「赤ねこ大福」
 どんな身体になっても食べていけないものはない!と強い信念をもつ時岡さん。「赤ねこ大福」(写真)は、糖尿病で家族から甘いものを禁じられた人を見かね、老舗の和菓子工房「あん庵」と共同開発した。
 糖尿病でも食べられる“赤ねこ大福”

 糖尿病でも食べられる“赤ねこ大福”

 もち米の発芽玄米と小麦の全粒を使って食物繊維を増やし、血糖の上昇をおこりにくくした。カロリーも80kcalに抑えた。どんな身体になっても食べることを奪わず、食べ物を工夫して提供できる管理栄養士のワザはすごい。
 予防の現場を見てきた時岡さんは、内臓疾患がない高齢者は珍しいと話す。脂質異常や動脈硬化→脳梗塞→嚥下障害という重症化の流れを防ぐには、早いうちから食に関心をもってもらうこと。美味しかった、楽しく食べたという食の成功体験を積むことだという。
 赤ねこ大福で子供食堂も支援しているそうだが、今は介護保険外で栄養支援ができないか、地域カフェも営む山下勝巳ケアマネジャー(山勝ライブラリ代表=上掲写真)と模索中だとか。地域に食の文化を広げたいそうだ。
(シルバー産業新聞2020年9月10日号)

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