地域力発見

都市部の買物難民を、民間の力で支援/宮下今日子(連載107)

都市部の買物難民を、民間の力で支援/宮下今日子(連載107)

 高齢者の買物難民は、都市部でも課題だと聞き、東京都三鷹市の大沢にある都営団地を訪ねてみた。「とく、とく、とく、とく、とくし丸~♪」のアナウンスが流れると、あちらこちらから高齢者の買い物客が集まってくる。中には、町角に立って車が来るのを今かと待っている人も。

 団地に住む田柄みさ子さんは、かつおのお刺身を手に「近くにスーパーがなくて、買物に行けない。ここはスーパーと同じくらいの買物ができるのよ」と嬉しそう。杖をついてやってきた高齢の女性は、「私は歩けないからね、近くてありがたい。買物って楽しいでしょ、それにみんなと会えるし」。生活支援コーディネーターの和田麻美子さん(写真左)がカゴを持ち、今日は何にしますか?おにぎりも美味しそうね、と和田さんが言うと「じゃあ、それにするわ」と返してみたり。何気なく地域住民に寄り添う姿が印象的だった。

 移動スーパー「とくし丸」の販売員、溝口朋子さん(写真中央)は、契約スーパーであるコモディイイダと連携し、約1200品目を冷蔵機能を搭載した軽車両に積み込む。日用品から食品、お菓子まで幅広く取り揃え、お寿司や、活きの良いお刺身も並ぶ。買物するお客さんには、奥の方から商品を出してあげたり、今度はあれが欲しいと言われれば、次回持ってきてくれる。御用聞きのような親切な対応や、お年寄りが好みそうな気の利いた品揃えで高齢者の気持ちをがっちり掴む。「認知症かなと心配になる人も一人で来てくれます。ケアマネさんから、心配な人がいるからねと聞いておくこともありますよ」と溝口さんは教えてくれた。
 大沢地区では現在、約40カ所でとくし丸が稼働し、約130人のお客さんに対応している。溝口さんは週5日勤務しているが、仕事の醍醐味をお聞きすると「お客さんの事を考えて商品を選ぶ楽しさがあるし、何と言っても自分は社長」と笑顔が飛び出した。はじめて半年だが軌道に乗っているそうだ。

 開業や集客にはとくし丸の本部がフォローする。集客のために、提携スーパーのスタッフや販売員が戸別に訪問してチラシを配るが、その際、一人暮らしで食に困っていそうな人を、勘を働かせて選ぶという。民間ならではの力を発揮して、地域の困りごとを発見している。

 とくし丸が来る日、自治会の田中政雄会長(写真右)は、椅子を5、6脚並べていた。「以前はバスで買物に行っていた人も、歩くのがやっとになり、日常の買物が不便になってきた。品物を自分で選ぶ楽しみや、人との交流も大事だ」と話す。なるほど椅子は大事な仕掛けだった。
 団地(5棟)では現在82世帯が暮らす。そのうち65歳以上の世帯は49世帯。一人暮らし世帯は約20。80歳以上は17人。かつて一番多かったファミリー層も子供が巣立ち、寂しい限り。住人は粗大ごみの始末が一苦労になってきたそうだ。

 また、生活保護や介護保険など制度に繋がらない人も課題に挙げた。「住民は介護の知識がないのが心配だ。市が配布する見守りキーホルダーの説明会や、介護者談話会、フレイル予防の体操教室などを始めたところ」と話す。この買物支援は東京都の「都営住宅における買物弱者支援事業」として実施しているが、田中さんは、東京都と三鷹市に相談して、正式に事業として締結にこぎつけたそうだ。
 大沢地域包括支援センターの香川卓見センター長は、大沢地区は小さな商店がぽつぽつあったが、店主が高齢化して店をたたみ出したのが約10年前。1丁目は坂の上でバスが走っていない。坂の下の5丁目あたりは商店がない。バス停に行くのも一苦労というエリアもあると説明する。「今、移動スーパーが盛況なのは当然。大沢地区にとっては起死回生」と話す。

 実はかなり前から地区の関係者の間で買物難民がテーマに挙がっていた。ヘルパーの買物支援を位置付けるケアプランは多かったが、スーパーに行く時間も長かった。「利用する人は、出掛けられるけど、行ける範囲に店がないという要支援の方や、その一歩前の人が多い。介護予防の観点からみると一定の効果があると思っている。それは、毎週、決まった曜日、時間に、決まった人達が買物に行くことで、顔を合わせ一つのコミュニティができる。短時間であっても一つの居場所になっている」と評価する。

 さらに「私達包括は、元気な高齢者とどれだけ知り合えるかがとても大事。相談を待って受けるだけではダメ!と職員にいつも言っている」と示唆に富む在り方も指摘した。

 移動スーパーという民間の力を活用し、民間も包括をうまく活用するという、協力関係に期待しているそうだ。
 次回は中山間地の買物支援をお伝えしたい。
(シルバー産業新聞2021年12月10日号)

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