千田透の時代を読む視点

福祉用具貸与価格の上限制/千田透(連載65)

福祉用具貸与価格の上限制/千田透(連載65)

 2018年10月から福祉用具貸与については、商品ごとの全国平均価格の説明と貸与価格の上限制が始まった。利用者が適切な価格で福祉用具を借りられるようにするための仕組みだが、事業者が適正な利益を確保できなくなるおそれや、サービスの質の低下を招くことが懸念される。

質の低下を招かぬ仕組み必要

 上限価格は、商品ごとに「全国平均貸与価格+1標準偏差」で計算され、正規分布の場合、高い価格をつけた上位約16%が保険給付の対象から外れる仕組みになっている。同一製品でありながら著しく高い貸与価格を設定している、いわゆる外れ値を防ぐことが目的で導入されたが、19年度以降も「概ね1年に1度」の頻度で見直しが行われるため、上限価格が機械的に下がっていくことが予想される。

 事業者団体である日本福祉用具供給協会が行った緊急調査によれば、今回の制度見直しにより、上限に抵触して値下げをした商品は、平均で110商品。売上高への影響は、加重平均で2.6%減少という結果だった。

 直近の経営実態調査では、福祉用具貸与の収支差率は4.5%なので、今回の見直しだけで、2.6ポイント以上は悪化することになる。緊急調査のアンケートでも「事業の縮小を検討したい」「この事業からの撤退を検討したい」などの意見も出ており、経営への影響は少なくない。

 これが毎年見直されるとなると、福祉用具貸与事業者の経営環境は今後、厳しいものになっていくだろう。懸念するのは、メンテナンスやモニタリング、人材育成などの目に見えにくい部分でコストダウンを図り、業界全体のサービスの質が低下していくことだ。

 制度の導入にあたり、介護給付費分科会の審議報告でも、利用者や事業者に与える影響が大きいことを考慮して、「施行後の実態も踏まえつつ、実施していく」との一文が付け加えられており、運用について慎重に進めていく必要があるだろう。

 外れ値対策であるならば、昨年10月の上限の適用により、すでにその目的は達成されているはずであり、サービスの質の低下という観点から、毎年見直すことの必要性や「全国平均価格+1標準偏差」という上限の範囲などについても議論を深めていくべきだ。

 論理的に言えば、行き過ぎた価格競争による事業者のサービスの質の低下を招かぬよう、価格の上限だけでなく下限を設けていくことなども検討すべきであろう。適正な競争が行われなければ、最終的には利用者、国民のためにならない。

福祉用具の効果を検証し、多職種と共有

 福祉用具や住宅改修は、うまく活用すれば、マンパワーのサービスを代替することもできる。人手不足が問題となる中で、こうした効果は、今後ますます重要になってくるだろう。

 ただ、そうしたことが世間一般には、あまり認識されていない。さらに言えば、同じ介護サービスの中でも、他の専門職からは特殊な分野だと思われているところもある。

 これは、つまるところ、福祉用具の有効性が、きちんと効果測定されていないことが要因だ。そのため、どのような人にどのような用具を使えば、どれぐらい役に立つのかについて、実際に効果が出ている部分を検証して、それをケアマネジャーや医療関係職種と共有していくことが重要になってくる。

 適正な競争や価格が維持されていくために、適切な制度の運用と、サービスの質を高めるための努力が不可欠だ。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

(シルバー産業新聞2019年1月10日号)

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