I C Fからの福祉用具アプローチ

電動カート編/加島守(連載2)

電動カート編/加島守(連載2)

 福祉用具に関わる専門職には、環境が変われば参加や活動を促すこと、そして福祉用具の活用で生活が変わる可能性をしっかりと利用者・家族へ示し、提案することが求められています。本連載では「ICF(国際生活機能分類)」の考え方をモデルに、活動・参加、生活を変える福祉用具支援を解説します。今回は電動カートの導入事例について、ICFの考え方から読み解いてみましょう。

段差解消機を設置しても外出に繋がらず・・・

 自宅で夫と二人暮らしのAさん(62歳・女性)は糖尿病により、左ひざ下を切断し、現在は要介護2の判定を受けています。まだ若く、認知機能や判断能力も低下していないので、自宅での家事は基本的にAさんが行っています。屋内の移動は手動車いすを使用し、手すりを設置して入浴なども自立しています。ただ玄関の上がり框や門扉までに段差があり、外出は月一回の通院以外は、ほとんどできていません。

 Aさんは社交的で近所に友達も多く、たまに自宅を訪ねてきてくれます。Aさんも「自宅に来てもらうばかりでなく、一緒にどこかへ出かけたい」「買い物も夫やヘルパーさんに任せきりでなく自分でしたい」と口にしていたので、車いすで外出ができるよう、庭に段差解消機を設置することになりました。

 設置後、庭に出てガーデニングを楽しめるようにはなりましたが、なぜかAさんは決して自宅の外には出ようとはしません。理由を尋ねると、「外で車いす姿を見られたくない」とのことでした。特にAさんは若かったのでそうした気持ちが強かったのでしょう。

 そこで、Aさんに電動カートの利用を提案したところ、「これなら使ってみたい」と見た目も気に入った様子でした。実際、導入後は毎日のようにお化粧をされて、電動カートで買い物や友達と出かけるようになりました。

電動カートで 「個人因子」 をクリア

 このケースをICFモデルで振り返ってみましょう()。「活動」をみると、Aさんは普段から車いすで移動しており、玄関回りの段差の「環境要因」が外出する障害となっていました。段差解消機の導入だけでは上手くいかなかった理由は、「車いすに乗っている姿を見られたくない」というAさんの気持ち、「個人因子」を見逃していたためです。最終的には、電動カートの導入でその課題をクリアし、Aさんは買い物ができるようになり、またおしゃれをして親しい友人との交流も楽しんでいます。

 今回は個人因子と環境因子から、活動・参加へアプローチした例を紹介しました。しかし、実際の支援はこれで終わりません。「時々、友人と外出する」など、参加の幅が広がったことで、新しい「活動」ができるようになったり、運動量が増えれば「心身機能・身体構造」にもいい影響を与えたりするかもしれません。

 ICFの考え方は「相互作用モデル」です。原因と結果が一方通行ではなく、それぞれの要素が相互に影響を与え合っている関係です。したがって、ある要素が変われば、また別の要素へのアプローチが可能になるかもしれません。QOLを高める「好循環」を作るためにも、ICFの考え方で状況を整理することはとても有効といえるでしょう。
 加島 守(高齢者生活福祉研究所・所長/理学療法士)

(シルバー産業新聞2019年7月10日号) 

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