I C Fからの福祉用具アプローチ

玄関・屋外用手すり編/加島守(連載10・最終回)

玄関・屋外用手すり編/加島守(連載10・最終回)

 福祉用具に関わる専門職には、環境が変われば参加や活動を促し、そして福祉用具の活用で生活が変わる可能性をしっかりと利用者・家族へ示し、提案することが求められています。本連載では「ICF(国際生活機能分類)」の考え方をモデルに、活動・参加、生活を変える福祉用具支援を解説してきました。最終回のテーマは「玄関・屋外用のレンタル手すり」です。

事例 玄関ポーチにもレンタル手すりを設置

 自宅で一人暮らしのFさん(71歳女性)は変形性膝関節症で、以前から両ひざの痛みに悩まされてきました。かなり長い間、我慢をしてきましたが、いよいよ痛みが辛くなって病院へ相談。要介護認定の申請を勧められ、要支援2の判定を受けてサービス利用の検討が始まりました。

 Fさんは普段、自宅の中ではひざをかばい、柱などがあるところはそれにつかまって移動しています。特にFさんを苦しめていたのが玄関ポーチや2階へ上がる階段でした。買い物や洗濯物を持ったまま段差を上り下りしていると、痛みで脚に力が入らなくなる時もあるそうです。

 住宅改修で階段手すりを設置したところ、手すりで体を支えながら、もう一方の手で洗濯物を持って上り下りできるようになりました。痛みも抑えられ、安定性も増すので「上り下りがそれほど怖くなくなった」とFさんも満足げでした。

 そして玄関ポーチには、最近種類が増えてきた玄関先から屋外への移動をサポートするレンタル手すりの導入を決めました。それまで買い物袋を持って上り下りするのが怖くて、あまり荷物にならないよう、重いものやかさばるものを控えていたFさんでしたが、手すり設置後は好きなものを買うようになり、また買い物に出かける回数そのものも増えました。

 Fさんは毎年、自家製の梅酒を漬けていて、以前はよくご近所さんにおすそ分けしていたそうです。玄関先で転ぶのが怖くて近頃は控えていましたが、手すりを付けたことと、今年の梅酒が特に自信作だったこともあり、何軒かのお宅に振る舞うことができたと喜んでいます。それをきっかけに家に招き合ったりと近所との交流も深まりました。

 Fさんのケースでは玄関先に階段があり、本人の外出意欲を削ぐ要因になっていました。それを玄関ポーチにも設置できる手すりの導入で、外出機会は増え、周囲との交流にもつなげることができました。住環境の整備で、利用者の困りごとを解決することはもちろんですが、本人もイメージできない「本当はしたい生活」、すなわち活動や参加レベルのアプローチも非常に重要です。常にICFの視点を意識し、隠れた本人の希望やニーズを探りつつ、それを叶える支援を実践していただきたいと思います(了)
 加島 守(高齢者生活福祉研究所・所長/理学療法士)

(シルバー産業新聞2020年3月10日号) 

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