インタビュー・座談会

24年診療報酬改定 医療・介護連携推進への評価拡大

24年診療報酬改定 医療・介護連携推進への評価拡大

 2024年の医療・介護・障害福祉の同時改定は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる25年を目前に重要な意味合いを持つ。しかし、40年には今の75歳以上の人が医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上となり、日本の社会保障制度は本当の山場を迎える。今後の医療・介護連携の充実への布石となる今回のトリプル改定から、介護事業所がおさえておくべき診療報酬改定のポイントについて、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長に聞いた。

 今回の同時改定では、診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会と、介護給付費分科会の間で緊密な連携がとられた印象だ。介護保険を知り尽くした眞鍋馨前老健課長が今回、医療課長として改定に携わった影響も大きいだろう。

 まず、診療報酬改定では、急性期から回復期リハ、地域包括ケア病棟まですべての入院において▽栄養管理体制の明確化▽意思決定支援に関する指針の策定▽身体拘束を最小化する体制整備――が要件化された。

 特に85歳以上の人では、医療だけではなく、介護やリハビリ、栄養管理を含めた複合的なケアがよいアウトカムに繋がる。併せて、患者の権利擁護やADL維持を目指した身体拘束の適正化や、ACP(人生会議)を含めた意思決定支援の充実が求められた。

介護施設と協力医療機関連携を強化

 今回は医療・介護連携の充実が双方の基準強化、報酬評価に反映されているのも特徴だ。

 コロナ禍の反省を踏まえ、医療がさらに介護の世界に関わる重要性が認識された。診療報酬の感染対策向上加算の施設基準として、感染対策の知識を持つスタッフが介護保険施設等に出向き、感染対策やトリアージの方法などを伝え、合同で研修を行うことが望ましいと明記された。それに対応して、介護報酬においても、同加算を取得する医療機関との連携が要件となる高齢者施設等感染対策向上加算が新設された。

 これまでは高齢者施設で医療が必要になった時に、嘱託医に相談することなく、救急車で二次・三次救急施設へ搬送されるケースも見られた。誤嚥性肺炎や尿路感染症、うっ血性心不全の急性増悪などは一般の病院でも治療可能な場合も多く、緊急手術や救命処置を要する重症者への医療供給の負担となることが懸念されていた。さらに、医療費に関しても高次医療機関では入院1日あたり10万円を超えることもあり、地域包括ケア病棟の3万円程度と比べても3倍近く高額であることも問題視されていた。

 これを受け、地域医療の中核を担う在宅療養支援病院や地域包括ケア病棟をもつ病院は、介護保険施設等の求めに応じて協力医療機関となることが望ましいと施設基準に位置付けられた。併せて、施設への往診や入院受け入れを評価する加算も新設された。これは、介護保険施設等で義務付けられた協力医療機関との連携体制の構築や定期的な会議の実施に対応したものだ。

高齢者の急性期疾患に地域包括医療病棟新設

 在宅や高齢者施設からの患者受け入れ先として地域包括ケア病棟の役割が期待されているが、患者に対する看護師配置が13対1であることからも、全ての高齢者の急性疾患に対応することは困難と考えられた。

 本改定では、救急患者の割合が15%以上と急性期の機能を持ちつつ、リハビリや栄養管理体制も備えた地域包括医療病棟が新設された。治療開始後、早期にリハビリや栄養管理を開始することで死亡率低下とADL維持が期待される。

 現在、病院全体の患者の6割を75歳以上の高齢者が占める。当面の間、増加が見込まれるが、40年を過ぎると総人口・高齢者数ともに減少に転じる。将来的には病床数を減らし、収束する方向にあることへ目を向けなければならない。

 地域包括医療病棟の新設には、急性期を主に扱う医療機関に、高齢者医療や介護の重要性への気づきを与える意味合いがあると思われる。

かかりつけ医機能評価にケアマネとの相談明記

 かかりつけ医とケアマネの連携を強化するために、地域包括診療料等の算定要件に▽ケアマネと相談支援員からの相談に応じること▽その旨を院内に掲示すること――が位置づけられた。さらに、担当医がサービス担当者会議または地域ケア会議への参加実績を持つことなどが施設基準として追加された。

 介護報酬改定では、ケアマネの入院時情報連携加算の見直しが行われ、入院当日から利用者の情報を医療施設へ提供することへの評価の引き上げが行われた。

 私の病院のある福井県では、県独自ルールとして10年ほど前からケアマネが要介護者の情報を3日以内に入院施設に提供することを原則義務化していた。18年と今回の介護報酬改定での評価の見直しは医療における患者の生活状況の重要さが認識された結果であろう。

 医師とケアマネの情報共有については、「ケアマネが情報を持って来ない」「診療が忙しくて相手にされない」などお互いの欠点を指摘する声が聞かれるが、一番困るのは利用者や患者であるということを忘れてはならない。
私は医師には、自分からケアマネに声をかけて情報収集を行うように声をかけている。

 一方で、ケアマネの中には医療のことはわからないという人もいるが、「自分の親が患者になった時と同じくらいの情報収集をしてほしい」と伝えている。ガイドラインなどは、専門的すぎて難解なこともある。今は、インターネットを活用すれば分かりやすい情報を簡単に得ることができる。教科書も大切だが、自分の利用者の病気のことを勉強して、知識を積み重ねて行けばよい。そこでわからない点をかかりつけ医に聞くことで連携の好循環にもつながる。

 しかし、医師も多忙な中、日程調整が難しいことも事実である。当県では、医師会に声掛けをして、病院にケアマネの相談窓口を設けリストを公表している。こうして、相談のハードルが下がることを期待している。

過疎地は中小病院の活躍期待

 過疎地等の介護施設では、協力医療機関を確保できないのではとの声が聞かれるが、有床診療所や中小病院の活躍が求められる。病院側も今回の改定を連携のチャンスととらえて欲しい。

 介護施設側も中小の病院と、普段から顔の見える関係を築いておけば、いざという時に最適な選択肢を提示してもらえる。また、連携先の選択は自由であり、可能であれば複数の病院を利用してみて一番良い対応をしてくれた病院を選べばよい。そこで病院側にも競争原理が働き、施設からの要請に応えられない場合はいずれ淘汰されるはずだ。

 是非、当協会の会員施設や地域包括ケア病棟をもつ病院、在宅療養支援病院等を地域の拠点として活用して欲しい。

診療報酬で介護福祉士への初の評価

 介護報酬では処遇改善加算などで介護福祉士の雇用が評価されていたが、診療報酬では評価がなかった。病院で働く介護福祉士は、医療法では看護補助者の一部に位置付けられる。

 当協会は以前より、身体介護の専門家である介護福祉士の医療現場での必要性を主張してきた。今回の診療報酬改定では、看護補助者への評価が見直され、施設基準として初めて、介護福祉士の資格、または看護補助者として3年以上の勤務経験と適切な研修の修了が要件に加えられた。新設された地域包括医療病棟での加算算定も認められており、高齢者の急性期疾患の治療アウトカムの改善などが期待されるであろう。

(シルバー産業新聞2024年5月10日号)

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