ニュース

訪問介護現場の最前線 事業者らが緊急に集まりもつ 川崎市中原区

訪問介護現場の最前線 事業者らが緊急に集まりもつ 川崎市中原区

 神奈川県川崎市中原区の「訪問介護事業所連絡会シトラス会」(*)は、地域に根差した訪問介護事業者の集まりで、設立されたのは2007年。会員は現在、24事業所。中小規模事業者を中心に、事業所間の垣根を越え、困難事例や悩み事を共有し合ってきた。また、自治体や他機関、他団体にも提案し、連携を図ってきたのも活動の特徴だ。

 コロナ禍ではSNSを使って、マスクやディスポ不足などの困りごとを情報共有。今回の介護報酬改定による訪問介護の基本報酬引き下げでは、事業者運営に相当の危機感をつのらせる。制度改正を前に緊急に集まりをもち、サービス提供責任者らが参加した研修会を取材した。

 3月中旬に開かれた会場に参加したのは約30人。はじめに、今回の改正要点の整理があり、続けて、事業者から様々な意見が挙がった。関心が高かったのは、加算の取得に関する問題。そして、サ責として何ができるかという観点から、これまでの支援計画の内容を見直し、アセスメントについての深い掘り下げがあった。以下、加算と訪問介護計画書に関する2点を紹介したい。

特定事業所加算について
 国は特定事業所加算の取得を促しているが、同Ⅰの算定率は、6.44%、同Ⅱの算定率は29.53%、それ以外は1%に満たない。シトラス会では、同加算を取得している事業所は数カ所で、大手事業者は取得率が高い印象だという。
研修会では、同加算の取得要件が話題となり、その1つ「サービス提供ごとの指示・報告」についてその方法が検討された。特にサ責がヘルパーにどう伝えるかについて、何らかのシステム導入が必要だという意見が挙がり、すでに市場に出ているソフトウェアの活用をめぐり情報交換が行われた。

 サ責は、ヘルパーがサービスに入る前に指示を出し、報告を受けて、次のヘルパーに伝えなくてはならない。これをクリアするには、スマホの導入が不可欠なのが現状で、実際、区内ではスマホの支給も始まっていて、スマホやアプリの管理をめぐって試行錯誤が始まっている様子だった。また「ご家族が、その日の様子を記録で確認できなかったり、複数の事業所が入っている場合に、タイムリーな情報共有や連携が困難という場合もある」という発言もあり、自宅のノートで連携してきた利点も見逃せないようだ。

 また、個人情報の取扱いについては慎重な議論が必要で、厚労省は、個人デバイスを使わないように推奨していることや、データがスマホに残らないシステムも重要なポイント。また、ケアに入っていたヘルパーの記録を、直接次のヘルパーが見る流れではなく、あくまでもサ責が指示を出さすというルールも確認された。

加算の取得は利用者負担に繋がる点に課題
 加算の取得は事業者や職員の質の向上に寄与するとはいえ、利用者の負担が上がる点を心配する声が挙がる。以下、やり取りを少し紹介したい。
 
・「処遇改善加算は利用者の支給限度額外になるが、特定事業所加算は限度内になるので、利用できる単位数に影響が出る」
・「特定加算をとると利用者負担が上がるので、ケアマネから依頼が来なくなったと話す事業者もいると聞く」
・「利用者に来月から特定加算を取ったので利用額が上ると説明しても、えっ、来るヘルパーは変わらないのに?これまでと何が違うの?と言われることがある。だから事業所も何となく尻込みして、加算取得は面倒になると聞く。それで取らなくなっているという印象がある」
・「しかし、実際は特定事業所加算を取らざるを得ないというのが正直なところだ」
・「今、特定を取っている事業所からすると、実際は選ばれなくなるというのはそれほどない。そういう影響よりも10%報酬が上がったほうが良いと思う」
・「これは、特定事業所加算が設立した当時から、ずっと言われ続けている。そして、特定を取ると、ヘルパーの個別研修の設定や実施を行い“質の確保”が求められる。これは良いことだと思う」

 今回の訪問介護の改正では、処遇改善加算が整理され、取得すればヘルパーの給与は改善される。しかし、特定事業所加算は利用者の負担が増えることで、選ばれにくい事業者になる側面は拭えず、複雑な事情を抱えている様子が伺えた。また、特に小規模事業所の場合は日々の業務に追われ、しかも事務職のいない事業所では、加算を取得する余裕がない。こうした場合でも、シトラス会では、取得が難しい事業所へは助け合いの声掛けを行っていくよう共有された。

「もう一度、訪問介護計画を見直そうよ!」
 加算を取得する意味は、事業所の質の向上でもある。そこで、訪問介護事業の質に議論が及び、これまでの訪問介護計画を見直してはどうかという意見が出た。特に、ケアマネジャーのケアプランとの連携をどう進めるかが大きな焦点となった。「特定事業所加算を今すぐに取らなくても、明日からでも訪問介護計画は見直せる。もともとシトラス会は、サービス提供責任者の集りで、適切な訪問介護サービスを提供し、それがしっかりやれていると認められることが大事ではないか。特定事業所加算はその上での話しになるよ。それがこの会の理想だと思う」という核心に迫る呼びかけがあった。

 本来、ケアプランは、ケアを提供する多職種の意見が反映されて、ケアマネジャーが作成することになっているが、訪問介護事業者からの提案が反映されにくいという声が挙がった。訪問介護のサービス計画は、自立支援に向けて適切に計画さなくてはならないが、現場では、生活援助だけでなく身体介護が必要であるはずが、それがケアプランに反映されないと感じる場合もあるとの意見は多かった。

 参加した一人は「ケアマネのプランにはもちろん根拠がある。サ責として個別に話し合いもしているが、身体介護にすると単位が足りなくなる利用者もいると言われた」と明かす。介護保険制度では利用の限度額が決められているため、サービスが多い利用者は単位に配慮しなくてはならず、身体介護を入れられない場合もあるという。また、金銭面でも身体介護は生活援助よりも単価が高いため、低所得者が支払えない場合に、本来は身体介護が必要でも生活援助を提供するケースもある。これでは適切なケアが歪められていることになるが、ヘルパーは身体介護でケアを行っても報酬は生活援助になるので、事業所もヘルパーも“泣いて”いるのが実態と言える。

 こうした適正を欠いていると思われるケアプランについては、区分変更の必要性などもケアマネに伝える必要がある。「自立支援に向けたサービスだから、これ、生活3ではないよね、身1生2だよねと思ったら、シトラス会としては、これをしっかり言えるようにならなきゃいけない」という前向きな意見が挙がった。「実際に介護するのは私たち。これは身体だと思ったら自信をもって言おう」「僕らがちゃんとした根拠を提示するのは自分達の努力だと思う。なぜ必要なのか根拠を積み上げて説明することが大事」「そういう訪問介護事業所こそ残っていける事業所になる」と前向きな意見が続いた。

 そして、ある参加者はこう話した。「生活援助で掃除に入った時、ただ寝ている人だけの人だったが、一緒にゴミをまとめることを重ねていくことで、1年後にはその利用者さんは全然変わっている。やっぱり自立支援を重視していくことだよね。国の政策もそういうことだよね」と。ヘルパーはただ掃除をしているだけはなく、共に行う(身体介護)ことで、自立支援に繋がっている。訪問介護員だからこそ利用者の生活や異変に気付けることは多い。ケアマネジャーに発信できる力を付けていく必要性が共有された。

今後、シトラス会として出来る事
 川崎市ではケアマネジャーの連絡会も充実している。そこで、今後は訪問介護事業者だけの活動に留めずに、川崎市にも相談し、ケアマネジャーとも話し合おう!という意見が挙がった。今後の方向性として一つの案が示された。「ケアマネジャーに言われた時はこうしよう、というアクションに繋がる仕組を作るのはどうか。その仕組みが出来上ったら、ケアマネジャーと意見交換ができる。また、経営者にいろいろ言われた時でも、シトラス会ではこういう風に言うように習ってきた、と言えるようにしよう!」と。

 シトラス会では、経営面で乗り切る方法だけでなく、介護の質を考えるという、訪問介護の現場にとって最も大切な気付きを得ているように感じる。訪問介護事業者同士の垣根を越えた助け合いや、自治体や多職種との連携を探る姿勢は業界の参考になりそうだ。

*シトラスは、柑橘系のさわやかさがあり、豊富なビタミンで疲れをとり、香りでリラックス効果がある。訪問介護事業者に元気を与え、疲れを回復させられるようにという願いを込めている。

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル