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訪問介護 基本報酬引下げの影響は
今年4月の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられた。関係団体や野党からは撤回の要望が相次ぎ、訪問介護事業者との意見交換の場には武見敬三厚労相が自ら出席するなど、大きな波紋を呼んだ。武見大臣は、「介護職員等処遇改善加算の高い加算率や加算の充実により、訪問介護は全体としてプラス改定」と説明してきた。改定の影響を取材した。
新加算Ⅰ移行も減収になるケースも
厚生労働省は今回、訪問介護の基本報酬を引き下げた理由に、2023年度の介護事業経営実態調査の収支差率が、介護サービス全体平均の2.4%に比べて訪問介護は7.8%と高かったことを挙げる。
また、今年6月に一本化された介護職員等処遇改善加算で、介護職員の割合が高い訪問介護の加算率を14.5%~24.5%と他サービスと比べて高い水準としたため、基本報酬は引き下げたが、「訪問介護全体としてはプラスになる」と説明する。
しかし、実際にはプラスとはならないケースもある。例えば、30分以上1時間未満の「身体介護2」の基本報酬に新処遇改善加算(Ⅰ)の加算率24.5%を乗じると482単位となるが、改定前の3加算全てで(Ⅰ)を算定していた場合と比べると3単位低くなる(図)。加算率のアップ分より、基本報酬の引き下げ幅が大きいためだ。今年2~5月に実施した補助金分も含めるとさらに下げ幅は広がる。
また、今年6月に一本化された介護職員等処遇改善加算で、介護職員の割合が高い訪問介護の加算率を14.5%~24.5%と他サービスと比べて高い水準としたため、基本報酬は引き下げたが、「訪問介護全体としてはプラスになる」と説明する。
しかし、実際にはプラスとはならないケースもある。例えば、30分以上1時間未満の「身体介護2」の基本報酬に新処遇改善加算(Ⅰ)の加算率24.5%を乗じると482単位となるが、改定前の3加算全てで(Ⅰ)を算定していた場合と比べると3単位低くなる(図)。加算率のアップ分より、基本報酬の引き下げ幅が大きいためだ。今年2~5月に実施した補助金分も含めるとさらに下げ幅は広がる。
伸びしろあれば増収へ
ただ、同加算は総報酬との掛け算なのでその他の加算の算定状況や、一本化でより上位の区分に移行できれば増収に繋がる場合もある。東大阪市のライフケアひまわり(橋本清尚社長)は、改定前に旧処遇改善加算(Ⅱ)とベア加算を算定し、特定処遇改善加算は算定していなかった。対して改定後は、各種手当など処遇内容を見直し、処遇改善新加算(Ⅱ)を取得。加算率が12.4%から22.4%へと上がったことで、訪問介護の収入自体は押し上げられた。
同社は訪問介護事業所を1拠点置き、近くで小規模デイ併設の住宅型有料老人ホームを運営。訪問介護の利用者は60人ほどで推移するが、うち3分の1の20人ほどが有老ホームの入居者だ。
改定直後の訪問介護の売上は、改定前に比べて8%ほど増えた。処遇改善加算の上位区分への移行に加え、直前に有老ホームで重度の利用者を複数人確保できたことも寄与した。「身体介護の提供増や処遇改善加算の伸びしろがなければ、売上は逆に2%ほど下げていた」と橋本社長はみる。
同社は訪問介護事業所を1拠点置き、近くで小規模デイ併設の住宅型有料老人ホームを運営。訪問介護の利用者は60人ほどで推移するが、うち3分の1の20人ほどが有老ホームの入居者だ。
改定直後の訪問介護の売上は、改定前に比べて8%ほど増えた。処遇改善加算の上位区分への移行に加え、直前に有老ホームで重度の利用者を複数人確保できたことも寄与した。「身体介護の提供増や処遇改善加算の伸びしろがなければ、売上は逆に2%ほど下げていた」と橋本社長はみる。
提供回数で収支差率に大きな差
さらに経営に大きな影響をおよぼしているのが深刻なヘルパー不足だ。訪問介護の収支差率はプラス7.8%と、介護サービス全体平均の2.4%を大きく上回る。しかし、訪問回数別にみてみると、月400回以下の事業所は平均1%台であるのに対し、2000回超は13.3%とその差は大きい。神奈川県内で訪問介護を7事業所運営する生活協同組合ユーコープ(當具伸一理事長)の鈴木忠福祉事業部長は「売上を確保するには提供回数を増やすしかないが、そのためのヘルパーが確保できない」と嘆く。もともと処遇改善加算の最上位を取得。特定事業所加算も(Ⅰ)や(Ⅱ)の上位区分を算定しており、加算での増収はなかなか見込めない。
同組合のヘルパーは実数ベースでおよそ250人。12年と比べて130人ほど減少した。この間、神奈川県内の最低賃金は849円から1162円(今年10月~)と36%上昇しているが、訪問介護の基本報酬は逆に減少。処遇改善加算分を含めても、12.9~15.3%増と最低賃金の伸びには追い付いていない。
同組合では、登録ヘルパーの採用時の時給を1417円(9月21日~)と最低賃金より255円高く設定。さらに介護職員初任者研修も受託実施し、修了者が入職した場合には受講料を返金するといった取組みも行うが人員の維持さえ難しい。「既存利用者へのサービスを維持するのが精一杯。新規依頼は、距離や時間帯など条件がよほど合わないと受け入れられない。近隣の訪問介護事業所は競合ではなく、連携して地域のニーズになんとか応えている状況だ」(鈴木部長)。
同組合のヘルパーは実数ベースでおよそ250人。12年と比べて130人ほど減少した。この間、神奈川県内の最低賃金は849円から1162円(今年10月~)と36%上昇しているが、訪問介護の基本報酬は逆に減少。処遇改善加算分を含めても、12.9~15.3%増と最低賃金の伸びには追い付いていない。
同組合では、登録ヘルパーの採用時の時給を1417円(9月21日~)と最低賃金より255円高く設定。さらに介護職員初任者研修も受託実施し、修了者が入職した場合には受講料を返金するといった取組みも行うが人員の維持さえ難しい。「既存利用者へのサービスを維持するのが精一杯。新規依頼は、距離や時間帯など条件がよほど合わないと受け入れられない。近隣の訪問介護事業所は競合ではなく、連携して地域のニーズになんとか応えている状況だ」(鈴木部長)。
地域巡回型と集合住宅型
こうした中で、しばしば議論の的となるのが、集合住宅併設型の訪問介護だ。報酬改定の議論でも、検討委員から「地域巡回型と集合住宅併設型とは事業モデルが全く異なる。収支差率も分けて出すべきだ」との声があがっていた。サ高住などのサービス提供を実施していない事業所の訪問回数が平均291回、1日のヘルパーの移動時間69分であるのに対し、サ高住などの利用が8割以上の事業所では平均1582回、移動時間27分となっている。
厚労省調査では2割弱の訪問介護事業所がサ高住、有老ホームを併設する。同一建物減算を算定する訪問介護事業所は全体の26.8%(22年4月審査分)。そのうち半数超は、同一建物減算を算定する利用者のみにサービス提供を行う。基準省令では、同一建物等に居住する利用者以外に対してもサービス提供を行うよう努めることとされている。今改定では、訪問介護の同減算に新区分を設けることで拡充し、対応を図った。
利益のために過剰なサービスを提供するのは論外として、必要なサービスを効率的に提供すること自体が責められるべきものではない。むしろ人材不足がさらに加速する中では、さまざまな方法で推進される必要がある。
法改正により今年4月から、介護サービス事業者は経営情報について都道府県知事への報告が義務化され、準備が進められている。
地域包括ケアや在宅介護に必要な機能を失わないために、より細やかに運営状況を分析し、対応を図る必要がある。
(シルバー産業新聞2024年9月10日号)
厚労省調査では2割弱の訪問介護事業所がサ高住、有老ホームを併設する。同一建物減算を算定する訪問介護事業所は全体の26.8%(22年4月審査分)。そのうち半数超は、同一建物減算を算定する利用者のみにサービス提供を行う。基準省令では、同一建物等に居住する利用者以外に対してもサービス提供を行うよう努めることとされている。今改定では、訪問介護の同減算に新区分を設けることで拡充し、対応を図った。
利益のために過剰なサービスを提供するのは論外として、必要なサービスを効率的に提供すること自体が責められるべきものではない。むしろ人材不足がさらに加速する中では、さまざまな方法で推進される必要がある。
法改正により今年4月から、介護サービス事業者は経営情報について都道府県知事への報告が義務化され、準備が進められている。
地域包括ケアや在宅介護に必要な機能を失わないために、より細やかに運営状況を分析し、対応を図る必要がある。
(シルバー産業新聞2024年9月10日号)