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財務省 介護保険制度の給付抑制 生産性向上施策を提言

財務省の財政制度等審議会は5月27日、建議「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」をとりまとめ、政府へ建議の趣旨に沿った財政運営を要請した。介護分野では、①保険給付の効率的な提供②保険給付範囲の在り方の見直し③高齢化・人口減少下での負担の公平化――の観点から、給付抑制のみならず生産性向上に向けた施策を多数提起している。財務省主計局の大来志郎主計官(厚生労働、こども家庭係、社会保障総括担当)に話を聞いた。
介護保険制度は施行から四半世紀を経て、国民生活に深く根付いた。介護保険に限らず、社会保険は社会に不可欠なセーフティネットだからこそ、持続可能な仕組みとしていかなければならない。そのために、将来に向けて保険料上昇の抑制や応能負担の適正化に取り組んでいく必要がある。
財政制度等審議会では、①保険給付の効率的な提供②保険給付範囲の在り方の見直し③高齢化・人口減少下での負担の公平化――という3つの視点から、介護保険制度の持続可能性を高めるための見直しを提起している。
財政制度等審議会では、①保険給付の効率的な提供②保険給付範囲の在り方の見直し③高齢化・人口減少下での負担の公平化――という3つの視点から、介護保険制度の持続可能性を高めるための見直しを提起している。
生産性を高め、人員配置の緩和へ
①「保険給付の効率的な提供」については、日本全体で労働力の確保が課題となる中、介護分野でも生産性向上や協働化・大規模化などにより、希少な人材を効率的に活用できる環境を整えていかなければならない。2040年に向けて、今後ますます生産年齢人口の減少が見込まれ、これまでのように需要の増加にあわせて介護人材を増やし続けることは現実的に難しい。
介護現場の生産性を高めるために、ロボットやICTなどのテクノロジーをさらに活用していくべきだ。これまでも導入補助金や生産性向上推進体制加算の新設などで推進が図られてきたが、まだ導入や活用の余地は大きいと考える。
特にAIなどの進化は昨今とても目覚ましい。現場もわれわれ行政も、こうした動きにしっかりとアンテナを張り、上手く取り入れていかなければならない。
同時に協働化や大規模化の推進も生産性向上のカギだ。一般的に経営規模が大きくなれば、コスト面でもテクノロジー機器などの導入のハードルは下がり、小規模と比べて活用の効果も大きくなる。テクノロジーの活用が進めば、業務の属人性は低減し、結果的に人員配置の緩和やさらなる拠点展開も可能になる。テクノロジー活用と協働化・大規模化が、相互に作用し、効率的で安定した経営に繋がっていく。
生産性を高めながら、職場環境改善や介護職員等処遇改善加算のさらなる取得に取り組むことで、職員に選ばれ、定着する職場づくりに繋がる。同加算の取得事業所で、介護職員は1年で平均1万3960円(4.3%増)の賃上げが実施されている。
ただ施設系サービス全体の89.0%が上位区分(加算Ⅰ・Ⅱ)を取得しているのに対し、訪問介護では取得率が72.3%にとどまるなど、在宅サービスでの上位区分取得の余地が残っている。
また賃上げ状況の継続的な調査・分析を行い、的確な政策を立案できるよう、今年1月から運用が始まった「介護サービス事業者経営情報データベースシステム」での「職種別の給与総額、人数」の情報提出は任意から必須へ改める必要がある。
介護現場の生産性を高めるために、ロボットやICTなどのテクノロジーをさらに活用していくべきだ。これまでも導入補助金や生産性向上推進体制加算の新設などで推進が図られてきたが、まだ導入や活用の余地は大きいと考える。
特にAIなどの進化は昨今とても目覚ましい。現場もわれわれ行政も、こうした動きにしっかりとアンテナを張り、上手く取り入れていかなければならない。
同時に協働化や大規模化の推進も生産性向上のカギだ。一般的に経営規模が大きくなれば、コスト面でもテクノロジー機器などの導入のハードルは下がり、小規模と比べて活用の効果も大きくなる。テクノロジーの活用が進めば、業務の属人性は低減し、結果的に人員配置の緩和やさらなる拠点展開も可能になる。テクノロジー活用と協働化・大規模化が、相互に作用し、効率的で安定した経営に繋がっていく。
生産性を高めながら、職場環境改善や介護職員等処遇改善加算のさらなる取得に取り組むことで、職員に選ばれ、定着する職場づくりに繋がる。同加算の取得事業所で、介護職員は1年で平均1万3960円(4.3%増)の賃上げが実施されている。
ただ施設系サービス全体の89.0%が上位区分(加算Ⅰ・Ⅱ)を取得しているのに対し、訪問介護では取得率が72.3%にとどまるなど、在宅サービスでの上位区分取得の余地が残っている。
また賃上げ状況の継続的な調査・分析を行い、的確な政策を立案できるよう、今年1月から運用が始まった「介護サービス事業者経営情報データベースシステム」での「職種別の給与総額、人数」の情報提出は任意から必須へ改める必要がある。
訪問介護の課題は「ヘルパー不足」
前回の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられた結果、倒産件数が増加しているという指摘がある。
厚生労働省の調査によれば昨年6月~8月の訪問介護事業所の休止・廃止数552件に対し、新規・再開は583件で31件増加しているというデータもある。
休廃止の理由で最も多いのは人員の不足。引き続き、地域医療介護総合確保基金の支援メニューや、昨年度の補正予算で98億円を確保した提供体制確保支援のメニューも活用して人材確保策を推進すべきだ。
介護サービス情報公表システム上、「訪問介護事業所が1カ所もない自治体」が107自治体あるという指摘については、市町村を超えて広域でのサービス提供が行われている自治体や、システムに表れない小規模事業所・基準該当サービスなどが存在することも考慮しなければならない。
厚生労働省の調査によれば昨年6月~8月の訪問介護事業所の休止・廃止数552件に対し、新規・再開は583件で31件増加しているというデータもある。
休廃止の理由で最も多いのは人員の不足。引き続き、地域医療介護総合確保基金の支援メニューや、昨年度の補正予算で98億円を確保した提供体制確保支援のメニューも活用して人材確保策を推進すべきだ。
介護サービス情報公表システム上、「訪問介護事業所が1カ所もない自治体」が107自治体あるという指摘については、市町村を超えて広域でのサービス提供が行われている自治体や、システムに表れない小規模事業所・基準該当サービスなどが存在することも考慮しなければならない。
保険外サービスの活用を推進
②「保険給付範囲の在り方の見直し」の視点からは、今後長期的に介護給付の増加が見込まれる中、公的保険一本足で全てに対応するのは、持続可能性に照らしても現実的ではない。保険外サービスを柔軟に組み合わせた、利用者の多様なニーズに応えられる体制を構築していく必要がある。事業者にとっても、収益の多様化や経営の安定、職員の給与への還元などに繋がる。
しかし、自治体のローカルルールにより、介護事業者の保険外サービスの提供が認められないケースもあると聞いている。ローカルルールの実態把握を行った上で、保険外サービスの柔軟な運用を認めるべきだろう。
また厚労省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」で、これまでケアマネジャーが担ってきたシャドーワークについて整理が行われた。専門職の負担軽減の観点も含め、民間企業など多様な主体によるサービス提供が促進されるよう、第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、厚労省が自治体へ示す「基本指針」に、民間事業者との連携に関する考え方を整理し、記載すべきではないか。
あわせて、保険外サービスをケアプランに位置付けた際など、介護報酬上のインセンティブについても検討が求められる。
限られた人材や財源の中では、より専門的なサービスが必要な重度者へ給付を重点化していく必要がある。そのため、要介護1、2の訪問介護、通所介護も地域支援事業への移行を段階的に目指し、まずは次期改定で生活援助サービスを移行させるべきだ。給付の一律の基準に捉われず、地域の実情にあわせた柔軟なルールの下、多様な人材や資源の活用も見込める。
しかし、自治体のローカルルールにより、介護事業者の保険外サービスの提供が認められないケースもあると聞いている。ローカルルールの実態把握を行った上で、保険外サービスの柔軟な運用を認めるべきだろう。
また厚労省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」で、これまでケアマネジャーが担ってきたシャドーワークについて整理が行われた。専門職の負担軽減の観点も含め、民間企業など多様な主体によるサービス提供が促進されるよう、第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、厚労省が自治体へ示す「基本指針」に、民間事業者との連携に関する考え方を整理し、記載すべきではないか。
あわせて、保険外サービスをケアプランに位置付けた際など、介護報酬上のインセンティブについても検討が求められる。
限られた人材や財源の中では、より専門的なサービスが必要な重度者へ給付を重点化していく必要がある。そのため、要介護1、2の訪問介護、通所介護も地域支援事業への移行を段階的に目指し、まずは次期改定で生活援助サービスを移行させるべきだ。給付の一律の基準に捉われず、地域の実情にあわせた柔軟なルールの下、多様な人材や資源の活用も見込める。
2割負担拡大「改革工程に沿った検討を」
③「高齢化・人口減少下での負担の公平化」について。2024年度の介護保険費用は予算ベースでおよそ14.2兆円。このうち利用者負担は7.5%の1・1兆円で、9割超は保険料と税負担だ。国民負担は年4000億円のペースで増加しており、介護費用は今後も経済成長の伸びを超えて増えていくことが見込まれている。
そうした中で、政府の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」に基づき、利用料の2割負担対象拡大、居宅介護支援費の利用者負担導入などについて、しっかりと検討していくべきだ。2040年に向けて、人口構造の変化はこれまで以上に加速する。現役世代の保険料負担の抑制を図りつつ、増加する介護費用をより公平に支え合う仕組みとしていかなければならない。
ただし現時点で、当省として「所得上位何パーセントまでを2割負担の対象とすべき」といった具体的な主張を持っているわけではない。物価上昇なども含め、要介護者の生活に与える影響を踏まえつつ、予算編成過程で検討を深めていきたい。
そうした中で、政府の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」に基づき、利用料の2割負担対象拡大、居宅介護支援費の利用者負担導入などについて、しっかりと検討していくべきだ。2040年に向けて、人口構造の変化はこれまで以上に加速する。現役世代の保険料負担の抑制を図りつつ、増加する介護費用をより公平に支え合う仕組みとしていかなければならない。
ただし現時点で、当省として「所得上位何パーセントまでを2割負担の対象とすべき」といった具体的な主張を持っているわけではない。物価上昇なども含め、要介護者の生活に与える影響を踏まえつつ、予算編成過程で検討を深めていきたい。
利用者負担ゼロは「公平性欠く」
居宅介護支援費の利用者負担導入については、制度創設から20年以上が経過し、ケアマネジメントの利用はすでに定着している。利用者が本来負担すべき費用をゼロに据え置き続けるのは、世代間の公平性の点からみてもつじつまが合わないのではないか。施設サービスでは、ケアマネジメントにかかる費用が基本報酬に内包されている。利用者負担が存在することも考慮すべきだ。
利用者負担の導入により、利用者や家族などの意向が優先された「御用聞き」のケアプランが策定されかねないとの声もあるが、現状の取扱いでは利用者側からケアマネジャーの業務の質へのチェックが働きにくいといった指摘も一方である。
介護保険で費用負担がカバーされる仕組みの中でも、一定の対価を払うことでケアマネジメントを含めたサービスの質を利用者が意識し、提供側もさらにその質を高めるという好循環が生まれるのではないか。
大多数のケアマネジャーは専門職として使命感を持ってケアマネジメントを行っていることはもちろん承知しているが、利用者負担ゼロでも過剰なサービス提供など、一部で不適切とされる事案も残念ながら存在する。これについては、利用者負担の有無や負担割合とは必ずしもリンクしておらず、自治体の指導や減算の強化など、別の施策で対応する必要がある。
利用者負担の導入により、利用者や家族などの意向が優先された「御用聞き」のケアプランが策定されかねないとの声もあるが、現状の取扱いでは利用者側からケアマネジャーの業務の質へのチェックが働きにくいといった指摘も一方である。
介護保険で費用負担がカバーされる仕組みの中でも、一定の対価を払うことでケアマネジメントを含めたサービスの質を利用者が意識し、提供側もさらにその質を高めるという好循環が生まれるのではないか。
大多数のケアマネジャーは専門職として使命感を持ってケアマネジメントを行っていることはもちろん承知しているが、利用者負担ゼロでも過剰なサービス提供など、一部で不適切とされる事案も残念ながら存在する。これについては、利用者負担の有無や負担割合とは必ずしもリンクしておらず、自治体の指導や減算の強化など、別の施策で対応する必要がある。
骨太「経済・物価動向等を踏まえた対応」について
6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)では、社会保障関係費について、医療・介護等の「経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」ことが明記され、こうした「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分」を従来の「高齢化に相当する伸び」に「加算する」とされたところだ。
他方、この「経済・物価動向等を踏まえた対応分」についても予算編成過程における精査は必要だ。コスト抑制への取組余地を残したまま、物価上昇率や賃上げ率で機械的・自動的に伸ばせば、保険料負担など給付を支える負担も増加し、現役世代を中心とした家計や企業の活力を奪いかねない。
予算編成過程においてデータ等に基づき精査を行い、コストの増加を適切に反映することで、保険料負担の増加の抑制と経済・物価動向等の適切な反映を両立させる対応をとってまいりたい。(談)
他方、この「経済・物価動向等を踏まえた対応分」についても予算編成過程における精査は必要だ。コスト抑制への取組余地を残したまま、物価上昇率や賃上げ率で機械的・自動的に伸ばせば、保険料負担など給付を支える負担も増加し、現役世代を中心とした家計や企業の活力を奪いかねない。
予算編成過程においてデータ等に基づき精査を行い、コストの増加を適切に反映することで、保険料負担の増加の抑制と経済・物価動向等の適切な反映を両立させる対応をとってまいりたい。(談)
(シルバー産業新聞2025年8月10日号)