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【短期連載】生産性を数値化するアメーバ経営②(実践編) 全スタッフが行動・成果を数字管理

【短期連載】生産性を数値化するアメーバ経営②(実践編) 全スタッフが行動・成果を数字管理

 京セラコミュニケーションシステム(京都市、黒瀬善仁社長)が提供する医療・介護法人向け「アメーバ経営コンサルティング」の実践編。新潟、関東圏で有料老人ホーム等を展開する東日本福祉経営サービス(新潟市、五十嵐豊社長)は2014年にアメーバ経営を導入し、2年後に黒字転換を果たした。「時間当り採算表」で売上・経費・時間の改善意識を高め、経験・役職を問わない「全員参加経営」の現場を醸成している。

 東日本福祉経営サービスは2002年に設立。「ハートフルケア」「ル・レーヴ」「ローベル」などの有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅を中心にグループで53事業所を運営する(10月現在)。

 アメーバ経営に取組み始めたのは14年。4~9月を現状分析・準備期間に充て、10月からスタートした。そして導入2年で赤字経営から脱却。以後、今期まで黒字を続けている。

 アメーバ経営の特徴は、組織を役割・責任に応じた小さな部門に分け、各部門で活動成果を数値化・可視化すること。部門毎の課題を明確にし、役職・経験を問わず全員で改善に取組む「全員参加経営」の実現をはかる。

 その際に用いるのが「時間当り採算表」。月ごとの収入から人件費を除いた諸経費を引いた額(差引収益)を、当該月の総労働時間で割った「時間当り付加価値」を算出する(図)。生産性を示す数値の一つとなる。

経営指標が身近に

 同社では各サービス事業所を一部門とし、全部門で時間当り採算表を管理。減価償却費を差し引かない「粗付加価値(以降「時間当り」)」として統一している。

 「数字に抵抗がある人でも生産性向上に取組みやすい」と常務取締役の大谷昌久氏。「企業全体の何億、何千万という売上を見ても、現場はイメージがわきづらい。「時間当り」は数千円単位。『あと5円上げるためには?』『なぜ先月から10円減ったか?』などの分析を日常の介護業務と結びつけやすい」。

 月末には、翌月の「時間当り」の見込みを設定。「施設だと入居率等をもとに売上予測を立て、経費は(判断も含め)購入予定物品などを計算。全て数字に落とし込む。感覚的な目標であってはならない」(大谷氏)。

 急な入院が連続するなど、見込み通りに進まないこともあるため、当月20日に目標値を見直し、月末の着地点を決める。サービスへの影響が少ない順に物品等の購入予定を延期するなど、必要な調整も。大谷氏は「サービスを低下させてまで経費を削減しては本末転倒。サービス向上へ何に投資し、どう売上につながるかを考える場でなければならない」と述べる。

 「時間当り」を高めるための取組みは「重点項目シート」で整理。売上・経費・時間の改善に向け誰が、何を行うかを具体的に記す。「水光熱費を抑えるため、職員の提案でトイレの水の量を調整した施設もある」と執行役員部長の大泉浩二氏。タンク内の水量を変えては試し、3分の2程度なら問題なく使用できることが分かったそうだ。

 「業務上の工夫はやがて『時間当り』の数値に表れてくる。職員は、他にも気づいたことを言ってみようという動機づけになる」(大泉氏)。

 部門内では毎月、アメーバ経営会議を開催(写真)。部門全体あるいは感染対策委員会、経費削減委員会といった多種ある委員会別に、ここでも売上・経費・時間の視点を明確に、改善案を検討する。部門内の職員が全員参加できるよう、必要に応じ数回に分けて行うそうだ。

 「ここでは全員の意見を引き出す部門長(多くは施設長または管理者)の役割がポイント。部門長の育成は、アメーバ経営の理念を浸透させるための優先課題の一つだ」と大谷氏は指摘する。

気持ちを一つにする毎朝の輪読

 同社では毎朝、始業前にアメーバ経営の理念を共有する時間を各部門で設けている。持ち回りで、その日の担当者が経営理念を唱和した後、フィロソフィを輪読し感想を述べる。

 この「理念の共有」こそが、アメーバ経営の第一歩となる。大谷氏は「数字を追いかけるだけでは上手くいかない。何のために生産性を高めるのか。ホスピタリティとは何か。意識の統一に必要なルーティーン」と説明。大泉氏も「職員一人ひとりがフィロソフィに対し思っていることを発信する。普段、仕事中では気づかない人となりを知る良い場になっている」と効果を語る。

 アメーバ経営導入から8年間で事業所は16カ所増加。大谷氏は「アメーバ経営は特効薬ではない。各部門の地道な改善努力の積み重ねであり、継続することに価値がある」と強調する。学ぶのは3年、忘れるのは3日――五十嵐社長の言葉だ。

(シルバー産業新聞2022年11月10日号)

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