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訪問介護の基本報酬引下げ 事業者から不満や怒り

訪問介護の基本報酬引下げ 事業者から不満や怒り

 厚生労働省が1月22日に公表した次期介護報酬改定案。全体の改定率はプラス1.59%だが、訪問介護、定期巡回サービス、夜間対応型訪問介護では基本報酬を引き下げる案が示された(表1)。訪問介護の基本報酬引き下げについて、厚労省は介護事業経営実態調査で比較的高い収支差率だったことを理由にあげている。加えて、一本化される介護職員等処遇改善加算を高い加算率に設定していることを強調し、全体でプラスになるような経営努力を求めた。しかし、介護職員の人手不足が深刻化する中、ヘルパーの求人倍率は15倍を超え、昨年の訪問介護の倒産件数は過去最高を更新。その中でのまさかの報酬減に、現場からは不満や怒りの声が広がっている。

基本報酬+加算でも▲2.9単位

 東京都三鷹市で訪問介護事業所「グレースケア」を運営する柳本文貴氏は、今回の国の説明に疑問を感じたという。そこで、引き下げられた基本報酬と、新処遇改善加算の合計額を改定前の単位数と比較した。

 具体的には、訪問介護では身体2のサービスが多いことから、このケースに絞って算出。現行の基本報酬396単位に、3つの処遇改善加算の合計となる22.4%を掛けた値と、改定後の基本報酬387単位に、一本化される処遇改善加算の最上位(処遇改善加算Ⅰ)の24.5%を掛けた値を比較。結果は、484.7単位から481.8単位へ、2.9単位のマイナスになった。

 さらに、この結果が事業収益にどう影響するかを試算したところ、年間で基本報酬分は222万円の減収、処遇改善加算分は144万円の増収となり、計約78万円減収になるとの試算結果になった。

11.8%増収は、わずか1割

 厚労省は加算の組み合わせによっては、全体でプラスになるケースもあると説明する。具体的に示したのは、処遇改善加算を取得していなかった事業所が、新たに加算を取得するケースだ。この場合、最も区分の低い新処遇改善加算(Ⅳ)を取得した場合でも、11.8%が上乗せされるため、大幅な増収が期待できるとする(図)。ただし、統計上、現行の処遇改善加算を取得していない事業所はおよそ1割なので、全体から見ると少数である(表2)。

集合住宅併設の訪問介護事業所の存在

 このように、どこに焦点を当てるかによって、収益増減の見え方も変わってくるが、処遇改善加算でカバーできるとする国の説明は、全体を考えると説得力に欠ける。特にこれまで処遇改善に取り組み、上位区分の処遇改善加算を取得してきた事業所では、今回の基本報酬の引き下げによって、減収となる可能性が高く、事業者から不満や怒りの声が聞こえてくるのも当然である。

 基本報酬引き下げの根拠とされているのは、介護事業経営実態調査で訪問介護の収支差率が+7.8%と、全サービス平均の収支差率(+2.4%)を大きく上回っている点だが、この数字の中には、サービス付き高齢者向け住宅などに併設されている、事業効率性の高い訪問介護事業所の存在も含まれる。

 人手不足や物価高騰の影響を受ける中、地域に点在する利用者宅を一軒一軒訪ね、ホームヘルプサービスを提供する事業所が、安定的に事業展開できる報酬改定が求められている。

(シルバー産業新聞2024年3月10日号)

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