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介護テクノロジーで身体負担軽減 抱えないケアで腰痛離職ゼロへ

介護テクノロジーで身体負担軽減 抱えないケアで腰痛離職ゼロへ

 特別養護老人ホーム極楽苑(名古屋市、岩田佳奈子苑長)は、令和8年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり厚生労働大臣表彰」の優良賞(施設・居住サービス部門)を受賞した。2019年に施設独自の「医療対応型フロア」を開設し、医療依存度の高い高齢者や看取り期の入所者を受け入れてきた。重度者介護に伴う職員の身体的負担が増えたことから、リフト、自動体位変換機能付きエアマットレス、入浴支援機器、ICTなどを導入。「抱える介護」からノーリフティングケアへ転換し、腰痛による離職者ゼロにつなげた。

 名古屋市には、医療機関の併設・近接や看護職員の24時間配置などを要件とする「医療対応型特別養護老人ホーム」の仕組みがある。極楽苑はこの枠組みとは別に、病院を退院しても医療ニーズが高く、次の生活の場が見つかりにくい高齢者を受け入れるため、2019年に独自の医療対応型フロアを18床開設した。ニーズの高まりを受け、現在は32床まで拡大している。

 岩田苑長(50歳、名古屋市老人福祉施設協議会次世代委員会委員長)は2000年から26年間、介護、生活相談、ケアマネジメント、職員教育、採用など幅広い業務に携わってきた。

 医療対応型フロア開設当初の夜勤は看護師1人、介護職1人。重度者には移乗、排泄、入浴に加え、夜間も頻回な体位変換が必要で、看護職らの負担は重く、離職も相次いだ。法人創設者である父からは「人を増やすだけでは解決にならない。福祉用具やテクノロジーを調べなさい」と助言されたという。

 その矢先にコロナ禍を迎えた。感染フロアの情報を紙で記録し、別の場所へ運ぶ方法では迅速な共有が難しいことから、記録のICT化を進めた。人を抱えて移乗する介助は腰への負担に加え、身体が密着することで感染リスクも高まる。現在ではハラスメント防止の観点も含め、抱えない介護への転換を進めている。

 ただし、機器を入れただけでは現場には定着しない。極楽苑では、業務そのものを見直し、研修、実技確認、導入後の継続的な評価を重ねながら、テクノロジーを日常のケアに組み込んできた。

 移乗にはベッド設置型、床走行式、天井走行式の介護リフトを活用する。対象者はリハ職、看護師、介護職リーダーがアセスメントして選定。女性は体重45㎏以上、男性は原則対象とし、拘縮や筋緊張の進行、認知症の有無なども考慮する。リフトの活用により、妊娠中の職員や高齢の介護職員も身体への負担を抑えて介助できる環境を整えた。吊り具にはサブスクリプションの仕組みを活用し、利用者の体格や身体状況に応じて適したものを選べるようにしている。
ベッド固定式介護リフトの活用(吊り具とのパッケージで賃貸=モリトー)

ベッド固定式介護リフトの活用(吊り具とのパッケージで賃貸=モリトー)

 岩田苑長は「介護リフトは腰痛予防だけではない」と話す。「抱えて移乗すると、職員は身体を支えることに意識が集中する。リフトなら利用者の顔を見て、目線を合わせながら移乗できる」。職員の身体的負担を抑えながら、利用者と向き合うケアにつなげている。

 夜間の体位変換には自動体位変換機能付きエアマットレス(モルテン「スコープ」)を活用。日中は看護師らが状態を確認してポジショニングし、夜間は機器を用いる。褥瘡はできてからの治癒が難しいケースも多く、除圧と体位管理による予防を重視する。

 入浴介助では、オペレーションそのものを抜本的に見直した。寝たきりの利用者では、1回の入浴に伴う移乗回数を従来の5回程度から2回へ削減。職員2人で40分を要していた介助も、1人30分で行えるようになった。職員の身体的負担だけでなく、何度も抱えられる利用者の負担も減らし、安心・安全なケアにつなげている。

 排泄では、尿や便のにおいを検知する排泄センサーも活用。定時に一律で確認するケアから、利用者の状態に応じたケアへの転換を進める。

 極楽苑では「Fineケア」として「美しく、優しく、上質に」を掲げる。それまでのICT向上委員会も「生産性向上委員会」へ改組。ICTにとどまらず、移乗、排泄、入浴など直接介助を含めた業務全体を見直す体制へと転換した。

 医療対応型フロアでは看護師が24時間対応し、看取りを担う医師や協力病院とも連携する。終末期には、水分摂取や点滴がむくみや痰を増やし、本人の負担につながっていないかも含めて状態をみる。看護師が常時対応することで、医療判断への不安を抱える介護職の精神的負担も軽減した。

地域の「スキマ時間」を介護の力へ

 人材不足への対応でも、「介護職を採用する」だけではなく、業務を切り分け、地域の人が短時間でも参加できる仕組みをつくった。それが極楽苑独自の「スマイルサポーター」だ。

 主婦、子育て世代、シニア、学生らに「笑顔を届ける存在」として参加を呼び掛けた。2年間、計4回の説明会には約150人が参加し、75人を採用した。朝・昼・夕の食事時間帯などに入り、配膳・下膳、清掃、消毒、換気、見守りなどの間接業務を担っている。

 その分、介護職は食事介助や口腔ケアなど専門性の高い業務に集中でき、研修や委員会活動に充てる時間も確保できた。人材不足を「人がいない」で終わらせず、地域の力を介護現場につなぐ取り組みでもある。
研修はスキルアップに欠かせない

研修はスキルアップに欠かせない

 こうした取り組みにより、職員1人当たりの月平均残業時間は15時間から3時間に減少。介護・看護職員の離職率は23.2%から3.3%まで低下し、腰痛を理由とした離職者の割合は32%から0%となった。

 外国人介護士も10人まで増えた。月1回、外国人職員向けの研修を行い、リフト操作なども一度教えて終わりにせず、繰り返し実技を確認する。介護福祉士取得も見据え、学びと交流の場としている。

 子育てや家族介護など、人生には働き方を変えざるを得ない時期もある。同施設では、生活と仕事を両立しながらキャリアを継続できる職場づくりを進め、育児・介護休業からの復職率100%を11年間継続している。

 岩田苑長がその先に掲げるのは「納得、満足、そして感動」だ。看取りを終えた家族から届く手紙には、最期まで寄り添った職員への感謝の言葉が記されているという。

 「テクノロジーは、人にしかできないケアに人を戻すために使う」。独自の医療対応型フロアで重度者を受け入れたことで顕在化した介護負担を出発点に、極楽苑は介護テクノロジーと地域人材を組み合わせ、職員が働き続けられる環境と上質なケアの両立を進めている。

(シルバー産業新聞2026年10月10日号)

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