インタビュー・座談会

精神病院から介護福祉事業へ、首都圏でも事業展開

精神病院から介護福祉事業へ、首都圏でも事業展開

 新潟県長岡市に本部を置き、全国有数の事業規模を誇る長岡福祉協会。地域包括ケアシステムをいち早く実践した故・小山剛氏が総合施設長を務めた高齢者総合ケアセンター「こぶし園」も広く知られる。田宮崇理事長に、法人の歩みや取り組みについて聞いた。

行政の要請受け、法人設立

 ――設立の経緯は。

 長岡福祉協会の歴史は1978年、重症心身障害児施設「長岡療育園」の設立から始まった。精神科医の私は当時、医療法人崇徳会を設立し、80床の精神医療専門病院「田宮病院」を運営していた。そこへ、県から「特養や障害児施設をやってもらえないか」という要請があり、立ち上げたのが社会福祉法人の長岡老人福祉協会と長岡福祉協会。その頃、県内に重症心身障害児の受け入れ先は少なく、他県の病院や施設に入らざるを得ないという状況があった。

 その後も、人材育成のための学校法人、ボランティア活動を行うNPO、セントラルキッチンの運営会社などを立ち上げ、事業内容や支援対象を広げてきた。地域や時代の要請やニーズに応え続けるうち、気が付けば今の体制になっていたという感覚だ。

 グループの共通理念は「自分や家族、友人が利用したいと思うサービスの提供」。精神科の医療現場が全国的に劣悪な環境が多かった時代に、「家族、友人が使いたいと思える病院を」と志し、田宮病院をつくった。その頃から一貫した私の想いだ。

首都圏も一定規模必要

 ――首都圏事業の展開について。

 長岡福祉協会が首都圏に進出したのは2006年。これも、行政からの要請がきっかけだった。現在は、東京都港区の「福祉プラザさくら川」を中心に、同中央区に「ケアサポートセンターつきしま」など3カ所、埼玉県和光市、千葉県柏市にも拠点を構えている。

 福祉プラザさくら川は、廃校になった区立小学校跡地に建設された特養、老健、障がい者支援施設の複合施設。収益では、首都圏だと高齢者介護サービスの提供のみでは厳しい面があるが、障がい福祉サービスなどを組み合わせることで、結果的に収支面でのバランスもとれている。今後も首都圏の事業展開は、行政からの要請や地域のニーズがあるなら積極的に検討していきたい。事業所間の連携や職員のキャリアパスの構築のためにも、首都圏でも一定の規模が必要になると感じている。


 ――グループ間や地域での連携について。

 グループの一般病院「長岡西病院」の患者のおよそ3割はグループの介護サービスの利用者や患者の方だ。退院後もグループ内の老健で自宅復帰に向けてリハビリを提供するなど、医療と介護をトータルで提供できる連携体制はかなり整ってきたと自負している。近頃は、認知症の方への対応や障がい者の高齢化・重度化などもグループ内で連携しながらサポートを行えるようになってきた。

 他にも独自の取り組みとしてはグループ全体で運営する空床照会システム「里ネット」がある。これは、グループの病院・施設・事業所の空き状況をリアルタイムでインターネットから誰でも確認できる。こうしたシステムも構築、活用して連携を推進しており、グループ内だけに止まらず、長岡市では病院、薬局、介護事業所、消防などの関係機関が、患者・利用者の同意のもとで必要な情報を共有できる「フェニックスネット」が利用されている。

次世代リーダー育成、若手フォローアップに注力

 ――職員の定着について。

 ケアの質向上や業務効率化のために見守りセンサーやインカム、記録システムといったICT導入の推進とともに、職員育成にも力を注いでいる。特に中間層、次のリーダーを担う職員に対して、半年以上かけて外部研修会社のサポートも受け、マネジメントやロジカルシンキング、業務の分析・改善提案など、介護や福祉に止まらない知識を身に付けてもらっている。

 また若手職員に対しては年に数回、フォローアップ研修を実施している。当法人に限らないと思うが1~3年目の職員の離職率は他の年代に比べ比較的高い傾向にあった。▽同期職員間での悩み・課題の共有▽キャリアデザイン、人事制度の理解▽メンタルヘルス、リスクマネジメントの習得▽法人への帰属意識の強化――などを目的にフォローを行っている。結婚やそれに伴う転居などの事情で離職が多い年代ではあるが、取り組み前と比べて効果をとても実感しているところだ。


 ――今後の展望は。

 近年、長岡市から受託を受けて生活困窮者相談支援事業を実施したり、病児・病後児保育施設にも取り組んだりと、ニーズの変化とともに事業の幅は今も広がり続けている。この先も、地域と時代の要請があれば、新しいことには常にチャレンジしていきたい。

 そのために、法人・グループの垣根を越えた連携も必要に応じて検討していきたいと思う。今年度から社会福祉連携推進法人制度も施行された。例えば、現在も外部と連携した研修、職員出向なども実施しているが、自法人だけで職を止めるということでなく、グループ内の人事交流なども含め、もっと職員の行き来や交流が盛んになるとよいと考えている。利用者・家族、職員、そして地域のためにさらに何ができるのか。外部連携も含めて、広い視野で可能性を探っていく。
〈法人概要〉
 1978年、田宮崇理事長が重症心身障害児施設「長岡療育園」設立のために創設。グループの崇徳厚生事業団は長岡福祉協会のほか、医療法人崇徳会、長岡老人福祉協会、学校法人悠久崇徳学園、NPO法人長岡福祉と医療の里ボランティア連合会、株式会社マイステルジャパンで構成され、200拠点以上、職員約3800人を擁する。2006年には首都圏事業部を立ち上げ、以降は首都圏でも介護・福祉サービスを提供している。
(シルバー産業新聞2022年7月10日号)

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