インタビュー・座談会

日本ノーリフト協会 保田淳子代表 「ノーリフトを医療の標準に」

日本ノーリフト協会 保田淳子代表 「ノーリフトを医療の標準に」

 日本ノーリフト協会は、医療・介護現場で人を抱え上げない「ノーリフティングケア」の普及に取り組む。職員の腰痛予防だけでなく、利用者・患者の安全と自己決定を支えるケアとして、制度への位置づけをめざす。診療報酬にノーリフティングを組み込むための政策提言を行う保田淳子代表に今後の取組を聞いた。

 ――ノーリフトケアを診療報酬に位置づける意義は何ですか。

 病院の運営は、指針や理念だけではなかなか変わらない。現場で腰痛予防の必要性が理解されていても、経営判断として優先されるかは別問題。医療機関にとって大きな基準は診療報酬。だからこそ、ノーリフティングを報酬上の評価に結びつける必要がある。

 特に病院は、在宅や介護施設、障害者施設へとつながるケアの出発点。病院で「抱え上げないケア」が標準になれば、退院後の生活や施設でのケアにも、その考え方をつなげられる。病院を起点に、地域全体のケアの質を変えていければよい。

 ――具体的な報酬評価の方法は。

 単なる加算ではなく、基本報酬の中に組み込むことをめざしたい。例えば看護配置に関わる基本的評価の枠組みの中で、看護師の身体的負担を軽減する設備や体制を整えることを病院の要件として位置づける考え方だ。

 加算なら、取り組む病院と取り組まない病院に分かれる。しかし基本報酬となれば、病院全体として取り組まざるを得なくなる。リフトやスライディングシートなどの用具を揃えるだけでなく、組織として「人を抱え上げない」体制を整えることにつながる。

 ――制度化に向けて、協会は何を進めているのでしょうか。

 国会議員や政策関係者への働きかけを進めている。元厚労相の田村憲久議員らによる「ヘルスケアテック議員連盟」などの場で、ノーリフティングを診療報酬に加える必要性を提言してきた。

 今後は、オーストラリアの取組や、日本での費用対効果のデータを示しながら、さらに理解を広げていく。豪州では、ノーリフトが労働安全だけでなく、ケアの質や患者の自己決定を支える仕組みとして発展してきた。その実例を日本の政策提言に生かしたい。

 ――ノーリフトケアは、腰痛予防だけが目的ではないのですね。

 人が人を抱え上げるケアは、患者や利用者にとっても不安定で危険な場面がある。ノーリフトケアは、単に職員のための技術ではなく、本人の自己決定を支えるケア。安全が確保されるからこそ、本人がどう過ごしたいかを選べるようになる。

 ――看護師国家試験(26年2月実施)でノーリフトケアが出題されたことも、普及に影響しそうです。

 国家試験に出題された意義は大きい。これまで日本の看護・介護教育で腰痛予防といえば、ボディメカニクスが中心だった。しかし、ノーリフトケアは「体の使い方を工夫して持ち上げる」のではなく、「そもそも持ち上げない」という考え方だ。

 教育段階でこの考え方が入れば、現場に出る前からリフトやスライディングシートを使うことが当たり前になる。診療報酬への位置づけと教育の変化を連動させることで、現場の文化そのものを変えていきたい。 (第37回介護福祉士国家試験にも出題された)
(シルバー産業新聞2026年6月10日号)

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