インタビュー・座談会

「怒らない」「否定しない」「傷つけない」  岩佐まり/松本琢磨/市川洌(2)

「怒らない」「否定しない」「傷つけない」  岩佐まり/松本琢磨/市川洌(2)

 29歳で在宅介護を始めたフリーアナウンサーの岩佐まりさん。アルツハイマー型認知症の母親との向き合う中で考えてきたこと、気づいたことを振り返る。

家族会に出て話をする

 市川 私の場合は義母ですが、岩佐さんのお母さまと同じアルツハイマー型の認知症でした。認知症の方の介護では、「怒ってはいけない」「否定してはいけない」「自尊心を傷つけてはいけない」とよくいわれますが、日々の介護の中で本当にその通りだと実感しましたね。例えば、家の中で用を足してしまっても決して責めてはいけない。それを徹底するようになって、認知症の周辺症状はかなり落ち着いてきました。

 松本 認知症の方を支える大切なポイントですね。しかし、人間ですから、ストレスも溜まりますし、時には怒りたくなることもあります。
 市川 そうですね。特に認知症の場合は、介護者への支援がなければ、支える人がつぶれてしまいかねません。

 岩佐 そうですね。私は母と常に2人なので、ストレス発散といってもなかなか難しい。一人で、がむしゃらになっていた私を見かねたのか、担当ケアマネジャーの方から、週1回のショートステイを勧めていただきました。そのおかげで友人と遊ぶ時間も持てるようになりました。
 それから、私はお酒が好きで、一升瓶を片手に訪ねてくれる友人もいます(笑)。母も一緒にテーブルを囲んで、お酒を飲みながらおしゃべりを楽しむ。周囲の方には本当に恵まれていると実感しています。
 あと、相談する場所を求めて介護者の家族会にも参加するようになりました。もちろん介護保険制度やサービスのことなら、地域包括支援センターやケアマネジャーさんに相談しますが、漠然とした将来の不安のような、とりとめもない話を聞いてくれる場所がなかったんです。友人もさすがに介護の話はわかりませんし。
 松本 同じ立場で話ができるのはとても参考になるでしょうね。障がい分野などでも、当事者の方や家族同士がつながる場が多くもたれているようです。
 岩佐 さすがに同世代の介護者はいませんが、介護の先輩からいろいろと教えてもらったり、同じように介護を頑張っている人がこんなにいるとわかると少しだけ心が軽くなりました。

声かけの大切さ

 松本 そうして介護を続ける中で、うまくやる「コツ」のようなものはあるのでしょうか。

 岩佐 母の場合は、特にお風呂や着替えを嫌がって大変でした。でも、嫌がる理由がそれぞれにあるんです。例えば、「冬場は脱衣室が寒いから服を脱ぎたくない」など。
 そこで暖房を入れてあげると、抵抗なく着替えてくれる。それまで、母が何を嫌がっているのかがわからなかったんです。お風呂も、「今からお風呂に入るからね」と一言声をかけることが大事だと気づきました。本人は認知症だから、これからお風呂に入るという状況が理解できていなかったんですね。声をかけて「今からお風呂か」と理解してもらえれば抵抗もありません。

 松本 状況がわからないまま、いきなりシャワーを浴びさせられたら誰でも怒りますよね。

 岩佐 ええ。それに気づくまで、何度も水と暴言を浴びせられました(笑)
 市川 認知症だからといって何もわからないのではなく、ただ表現の仕方がわからないだけなんですよね。だから、「どうせわからないだろう」と思って接してしまうと、大問題を引き起こしてしまう。
 以前、義母が「困った。困った」とあまりに悩んでいたものですから、妻が「何をそんなに困っているの」と尋ねたら、「それがわからないから困っているんだ」と(笑)。自分の頭が混乱していっていることが本人もちゃんと理解しているんです。それがたまらなく嫌で、不安な気持ちを抱えているのだと感じましたね。
 市川 洌 さん

 市川 洌 さん

「福祉用具は介護の インフラ です」
(いちかわ・きよし)早稲田大学理工学部卒。東京都補装具研究所にて各種福祉機器の研究開発に従事。その後東京都福祉機器総合センターを経て、2001 年に福祉技術研究所を立ち上げ、代表に就任。高齢者・障がい者の生活を作るための支援に関するコンサルティングや講演を中心に活動している。

(福祉用具の日しんぶん2018年10月1日号)

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