インタビュー・座談会

特別対談「介護が必要になっても、自立支援を」(前編) いとうまい子・長倉寿子

特別対談「介護が必要になっても、自立支援を」(前編) いとうまい子・長倉寿子

 1982年「ミスマガジンコンテスト」初代グランプリに輝いて以来、女優、歌手、タレントとして活躍されてきた いとうまい子さん。多忙な芸能活動の一方で、45歳の時に早稲田大学の人間科学部に入学し、予防医学やロボット工学を専攻。ロコモ予防のためのロボット「ロコピョン」の開発を手掛けた。

身近で大切な健康づくりの場

45歳で大学入学

――本日はよろしくお願いします。まず、いとうさんへお聞きしたいのが、芸能界で華々しく活躍される中、なぜ大学で予防医学やロボット工学を学ぶことを決めたのでしょうか。

 いとう 私が芸能界に入ったのは18歳の時でしたが、これほど長くお仕事をさせてもらえているのは、本当に支えてくれるみなさんのおかげだと思っています。いつからか「今度は私から恩返しがしたい」という想いが膨らんできました。でも高校を卒業してからずっと芸能界で過ごしてきた私には恩返しするための知識や術を持っていないなと…。恩返しの方法を見つけるために、45歳の時に一念発起して大学に入ることを決めました。卒業後は大学院へ進み、今も博士課程で研究を続けています。

 長倉 すごいですね。予防医学やロボット工学を専攻したのには理由があったのでしょうか。

 いとう 個人的に、健康づくりには感心を持っていました。日本には世界に誇る国民皆保険制度があり、具合が悪くなれば、誰もがすぐ医療にアクセスできます。ただ、だからといって一人ひとりの予防の意識も欠かせません。私の父はがんだったのですが、最期は自分で起き上がることも難しい状態でした。もともと父は活発な人だったので、なおさら「自分の足で歩きたいだろうな」と感じました。もちろん病気や障がいでどうしても難しい場合もありますが、父や私も含めて、多くの人は「できる限り、長く健康でいたい」と願っています。人が少しでも長く健康でいられるためにはどうしたらいいか、そのお手伝いをどうしたらできるかを学びたくて、健康福祉科学科がある早稲田大学のeスクールを選んだんです。

 ロボット工学と出会ったのは実は偶然で、3年生のゼミ決めの時に、当然私は今まで学んだ予防医学のゼミに入るつもりでいました。だけど、担当教授が定年でゼミ生を受け付けていなくて…。通学制の学生に相談したら、「すごく人気があるよ」って教えてくれたのがロボット工学のゼミだったんです。予防にロボットの技術が組み合わされば、何か面白い取り組みになるかもという直感に従って、そのゼミへ入ることを決めました。教授が整形外科の医師で、「ロコモティブシンドローム」という言葉もそこで初めて知りました。

大学院でロコモ予防のロボットを開発

――運動器の障がいや加齢などで、介護が必要になるリスクが高い状態のことですね。

 いとう それから、ロコモやロボット技術の勉強を続けて、大学院に進んでから完成させたのがロコモ予防をサポートしてくれるロボット「ロコピョン」です。

 長倉 可愛いですね。どのようにロコモ予防をサポートするのですか。

 いとう 1日3回、声掛けをして一緒にスクワット運動を促します。「おはようございます」「今日は何回スクワットしますか?」と呼びかけて、「じゃあ、今日は5回!」などと答えると、ロコピョンが一緒に指定した回数のスクワットをしてくれます。
 いとうさんが開発したロコモ予防ロボット「ロコピョン」

 いとうさんが開発したロコモ予防ロボット「ロコピョン」

 長倉 (実際に話して動くロコピョンを見て)これはやる気がでそうですね!

 いとう 近くに来てくれるまで、しつこく声をかけ続けるので呼ばれた方は仕方なく行くしかないんです(笑)

 長倉 なるほど(笑)あ! 「いち、にい、さん、し」とスクワットのリズムもとってくれるのですね。

 いとう はい。専門職の方から、アドバイスをもらってスピードを調節しました。早すぎると、高齢者の方などはひざを痛めてしまいますので。

 ロコモ予備軍の人へ、保健師さんたちが電話をかけて運動を促す「ロコモコール」という取り組みがあるのですが、なかなか毎日電話をかけるのは大変です。電話がある日はやるけど、電話がないと運動しないケースが多いんです。でもロボットだったら、負担なく、日々の運動に繋げることができます。

 調査で70代以上のご夫婦などにロコピョンを貸し出したところ、最初はみなさん「何これ」と首をかしげていましたが、使ってもらううちにロコピョンが呼びかけると「はいはーい!」と嬉しそうに飛んで来てくれるようになりました。返却してもらうときは、「その子がいなくなったら、もう運動できんわあ」とまで言ってもらえて(笑) 最初は乗り気でないのに、一度始めてもらえると長く続けてもらえるのは男性に多いようです。
 写真:いとうまい子さん
 (いとう・まいこ)女優。1964年愛知県生まれ。82年「ミスマガジンコンテスト」の初代グランプリを受賞。その翌年アイドル歌手としてデビュー。現在はドラマや映画で俳優業もこなす一方、テレビ番組でコメンテーターとしても活躍。芸能活動の傍ら、早稲田大学へ入学「ロコモティブシンドローム」予防のための、高齢者に役立つ医療・福祉ロボットの研究に携わり、2019年よりAIベンチャー・エクサウィザーズのフェローに就任。現在は早稲田大学大学院博士課程にて老化学を研究中。

(福祉用具の日しんぶん2020年)



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