インタビュー・座談会

台湾の福祉用具給付の変遷と今後

台湾の福祉用具給付の変遷と今後

 台北市に拠点を置く国立陽明交通大学ICF&支援技術研究センターは、台湾国内の福祉用具サービス発展のための研究とともに、政府や地方自治体の福祉用具施策のシンクタンクなどを担う。台湾の福祉用具産業・施策に詳しい李淑貞センター長に、台湾の福祉用具給付の変遷と今後について聞いた。

障害福祉法から始まった福祉用具給付

 台湾政府による福祉用具の補助は、障害福祉法の枠組みで1987年から始まりました。97年には、障害福祉法から障害者保護法へと法律の名称が変更され、対象となる福祉用具の範囲なども多少見直されました。

 01年には、台湾で初の「福祉用具センター」(輔具中心)が設置されました。当時の国立陽明大学が、台湾内政府からプロジェクトベースで受託し、設立されたものです。翌年以降、各自治体へ広がっていきました。現在は障害、介護両制度での福祉用具給付におけるアセスメントやメンテナンスなどの役割を担っています。

ICF、ISOに基づき制度を拡充、利用件数も増加

 そして08年には、障害者権利保護法へ移行しました。積極的な「権利の保護」へ転換を図るとともに、WHOが採択した国際生活機能分類(ICF)により、受給者を明確化し、福祉サービスの提供は包括的なニーズ評価を基に行うことが規定されました。そこで、台湾版ICF策定の役割を私が担うこととなったのです。

 台湾版ICFの策定を終え、それに基づき、同法における福祉用具補助の仕組みを見直す検討会には、政府や行政だけでなく、私や各自治体の福祉用具センター長なども加わりました。50人以上のメンバーで30回近くにおよぶ検討会が実施されました。日本をはじめとする各国の制度が参考にされました。

 その成果として、支給対象を85種目から170種目と2倍に拡大することができました。これはICFに加え、福祉用具分類に関する国際規格「ISO9999」に基づき、生活場面でも使われるような福祉用具まで広く対象としたことによるものです。

 この見直しによって、12年時点で福祉用具の補助実績は6.3万件、5.8億台湾元だったのが、17年には9.5万件/8.1億台湾元に伸びています。障がい者の数が急増したわけではなく、ニーズに応えた結果といえます。

長照2.0で福祉用具利用はさらに増加

 一方、高齢者を対象とする「長期介護十年計画2.0」(長照2.0)は2017年から始まりました(編集部注・07年~16年は前身の長期介護十年計画1.0が実施された)。長照2.0では、高齢者だけでなく、全年齢の身心障がい者も対象とされており、また補助上限額や補助上限品数などは異なりますが福祉用具補助のサービスの枠組みも、障害者権利保護法と同じく設けられています。日本のように介護保険優先の規定はないので、障害者権利保護法と長照2.0両方の対象者は、どちらの制度で福祉用具の補助を受けるか選択することができます。

自費も合わせた福祉用具市場は30億元

 ただ、一般的な所得の場合、障害者権利保護法が自己負担5割に対し、長照2.0は3割に抑えられます。そのため、長照2.0に利用が移り、17年には9.5万件/8.1億台湾元まで伸びた障害での補助実績は、22年には6.9万件/5.5億台湾元へ縮小します。

 一方、長照2.0では18年3.4億元(件数は政府の統計データがない)だったのが、22年は9.6億元、29.1万件に伸長しています。このように重複している補助について、現在利用者が制度を選ぶ形になっていますが、今後は両制度が互いに補完し合う体系を検討していく必要があるでしょう。

 また、両制度ともに補助上限を超える差額は自己負担となりますが、障害と介護あわせておよそ15億台湾元の補助実績に対し、自己負担額も同じく年間15億台湾元です。自己負担があっても、より良い福祉用具を利用したいニーズを持っています。制度による費用と同規模の自費市場がある。これも台湾の特性といえます。

レンタルの普及が課題

 障害、介護いずれにしても、初めのアセスメントは各自治体に置かれている福祉用具センターに常勤配置されているOT・PTが行います。資格を持ち、さらに84時間の専門講習と修了試験を経たOT・PTが、およそ5000人の障がい者、高齢者につき1人の割合で各センターに配置されています。専門職がアセスメントを行い、福祉用具評価報告書を発行して、利用者は購入やレンタルという流れになります。

 私自身が、高齢者介護、つまり長照2.0の福祉用具で課題と感じているのがレンタルの普及です。高齢者の場合、状態の変化に伴い、必要となる福祉用具も変わり、短期間で利用が終了する。ただ、台湾ではレンタルの補助額の低さや対象種目の少なさから、購入を選ぶケースが大半です。

 日本をはじめ、海外の福祉用具ももちろん台湾で流通していますが、総じて価格が高く、購入できる人は限られます。レンタルであれば、高機能で高価な製品でも負担が抑えられ、利用しやすくなるかもしれません。

 当センターが主催する「台湾長期介護レンタル補助機器優秀賞」も、レンタルの良さを国民、また政府やメーカー、福祉用具事業者へ啓発する取組みの一つです(談)
(シルバー産業新聞2024年6月10日号)

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