インタビュー・座談会

聖隷福祉事業団 未来に向けて人材確保と健康経営に注力

聖隷福祉事業団 未来に向けて人材確保と健康経営に注力

 静岡県浜松市に拠点を置く聖隷福祉事業団は、1都7県で212施設・517事業を展開する国内最大規模の社会福祉法人だ。結核患者の受け入れから事業を始め、世の中のニーズに対応することで事業を広げてきた。2021年4月に理事長に就任した青木善治理事長に、これまでの歩みと今後の展望について聞いた。

「逃げるように三方原へ…」

 1930年(昭和5年)当時、不治の病と忌み嫌われていた結核に苦しむひとりの青年を、長谷川保をはじめとする数名の若者たちが引き取り、世話をしたのが当法人の始まり。全国から噂を聞きつけて患者が集まる一方、地域からは厳しい視線を向けられ、逃げるようにして現在の拠点である浜松市の三方原にたどり着き、重度の結核患者を松林の粗末な小屋で世話していた。何度も閉鎖の危機に追い込まれ、事業閉鎖を決意した当日、今思えばちょうどクリスマスイブの日だったが、昭和天皇陛下より御下賜金を受けることとなった。それ以降、地域からの迫害も止み、何とか乗り越えることができたと聞いている。

 医療の発達が進み結核が治る病気になると、早期発見・治療に繋げるための予防検診事業を手掛けるようになった。その後も、世の中のニーズに対応することが事業拡大にも繋がっていった。看護師が不足すれば看護学校を開き、海外で心臓病患者が増加していると聞けば国内でも今後増えるのではと考え、心臓外科センターを開設した。がんが死因のトップになり末期がん患者を対象とした国内初のホスピスや、有料老人ホームという概念がまだない73年には高齢者世話ホーム「浜名湖エデンの園」を立ち上げた。当法人で勤務する看護師から、子どもを預ける場所がないという声を受けて始まったのが保育事業だ。

 地域共生社会の実現が望まれる時代だが、保健、医療、福祉、介護を総合的に提供しているのが当法人の最大の特徴。例えば三方原地区では、「聖隷三方原福祉タウン」として、聖隷三方原病院を中心に▽健康診断施設▽特別養護老人ホーム▽介護付有老ホーム▽リハビリテーションセンター▽障がい者支援施設▽救護施設▽認定こども園▽教育機関――などを集約し、各事業が連携することで質の高いサービス提供を可能にしている。

外国人や無資格者も積極採用・育成

 全国的に介護人材不足が喫緊の課題となっているが、当法人でも介護福祉士など有資格者の採用は頭打ちになっている。そこで外国人留学生や無資格者の採用にも力を入れている。留学生は日本語学校に通い、介護福祉士養成校で資格取得してから採用する。就学中は法人から奨学金を支払っている。無資格者は法人の中で研修を行いながら資格取得を目指してもらう。いずれも長い目でみて、人材を確保し育てていく考え方だ。しかし、EPAによる人材については円安が進むと、日本の介護が選ばれにくくなるだろう。この点は注視していく必要がある。

 同時にICTや介護ロボットなどの導入も積極的に行っている。特に見守りシステムは、今年度末までに有老ホームでの導入率は7割、特養・老健で5割ほどになる見込み。来年度はさらに引き上げる計画だ。夜間巡視や超過勤務の時間が4割減少するなど、職員の負担軽減に繋がる効果として表れている。インカムも、新人職員などが先輩職員にすぐに相談でき、安心感をもって業務にあたれる効果がある。来年度はさらにグループ全体でICTやロボット関連に5億円を投入する計画。職員の健康を守り、働きやすい環境づくりを推進する。

理事長就任後、「健康経営」に注力

 現在、注力する取り組みの一つが「健康経営」。経済産業省は、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と健康経営を定義し、認定制度などで推進している。

 職員に、心身ともに健康でやりがいを持って働いてもらうことこそ質の高いサービス提供につながる。理事長就任の半年後に組織を再編し、私が直轄する施策決定機関「健康経営推進委員会」、その下に職員の健康に関する事項を検討する「ヘルスケア委員会」をつくった。健康推進室も立ち上げ、現場経験をしっかりと積んだ看護師を室長に任命して、強力に推進しているところだ。

 重点施策として、▽定期健康診断後の再検査受診率100%(20年度実績55%)▽ストレスチェック受検率100%(22年度実績97.6%)▽離職率7.2%のさらなる低下――などがある。コロナ禍での職員の疲弊をみて、改めて職員の健康を守るというのは非常に重要なテーマだと実感している。

 また当法人は、2030年の創立100年に向けて「聖隷みらいプロジェクト」を立ち上げた。創立から1世紀を機に改めて我々の使命を見つめ直し、将来のあるべき姿を描いていこうというもので、30~40代の若い職員が中心になって進めている。経過報告を聞いたが、例えば、「少子化だからこそ子どもを大切にするための子ども検診やスポーツ教室の開催」「グループのマーケティングやブランディング強化」「法人内ベンチャー制度の創設」など、経営者からみても夢があって魅力的な取組みが数多くあった。今後、検討を重ね、プロジェクトを具現化していく。

 こうした中長期の目標に取り組むとともに、社会の変化やニーズを敏感に察知しながら、常にアップデートできる柔軟性を持った組織であり続けたい(談)
<法人概要>

 1930年5月創立。結核患者の受け入れを事業の始まりとする国内最大規模の社会福祉法人。健康経営のほか、SDGsの取組みにも力を入れ、創立100年を迎える30年に向けて17の目標達成を目指す。職員数(非常勤含む)は1万6000人を超える。21年度のサービス活動収益は約1300億円。キリスト教精神に基づく「隣人愛」を基本理念に掲げる。

(シルバー産業新聞2023年3月10日号)

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