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六甲の館 長期的な展望でノーリフトケアを推進

六甲の館 長期的な展望でノーリフトケアを推進

 社会福祉法人弘陵福祉会六甲の館(神戸市、溝田弘美施設長)は、2023年4月に開催された神戸市老人福祉施設連盟主催の「RR(令和・老施連)―1グランプリ」でノーリフトケアをテーマに発表し優勝。介護の質と生産性向上を目指しノーリフトケアを実践する。溝田施設長と発表者の看護師の大崎恵美さんに聞いた。

効果の見える化で現場に浸透

 当初、「ノーリフトケアで腰痛ゼロ施設」を理念に掲げ、介護福祉士を中心にノーリフト委員会を立ち上げたが、施設全体への浸透はあまり進まなかった。

 そのような中、看護師の大崎さんが委員長に就任。全フロアのケアに参加し、施設全体を縦断的に評価して問題点を洗い出していった。

 「看護師の全体を捉える力と、医学的なエビデンスに基づいたアセスメントがスタッフの協力につながった」と溝田施設長は振り返る。

 まず、取り組んだのが座位姿勢の変化などの見える化。車いすにリフトを活用して座ってもらい、写真で示しながら、肩の高さや体の正中ラインが保持されているかなど、看護師の視点でのアセスメントを各フロアの職員に伝えた。フロアからの疑問に対しても相互でやり取りを続け、次第に介護職員もアセスメントできるようになった。

 また、移乗時間を測ったところ、人手では3人で約3分かかっていたが、リフトでは1~2人で1分30秒程度と短縮していた。「体感と実際の時間は違うので測って見える化することが重要」と大崎さんは強調する。

 ベテランの職員ほど、リフトに抵抗があった一方で、従来の介助による体の負担は大きかった。リフト活用により自身の腰痛が改善するなどの効果を実感し、19年から日本ノーリフト協会が推奨するノーリフトケアに移行した。

 現在、同施設では、現場に関わるスタッフ全員が協会のベーシック研修を受講しており、委員会のメンバーはアドバンス研修も修了している。

ノーリフトケアで選ばれる施設に

 ノーリフトケアが浸透するにつれ、現場からも「職員と密着し体を支えられることに抵抗があるのでは」「利用者の気持ちを考えたらリフトの方がよいかもしれない」といった声も上がるようになった。

 また、高齢になると皮膚が弱くなり、少しの刺激で皮膚剥離を起こしてしまう。

 「人の手で支えると脇など1カ所に重さがかかるが、リフトならスリングネットで包むので圧力が分散され体の負担が少ない」と大崎さんは言う。

 移乗時の皮膚剥離も、ノーリフト移行前の18年の年間11件から、昨年22年は年間1件まで減り、褥瘡の利用者もいなくなった。腰痛を抱える職員の割合も、従来の半数以上から、1割以下に減少し、職員の満足度も上がった。

 「ノーリフトケアに魅力を感じ応募してくる人も多い。長期的な視点を持って、リフト導入など生産性向上や環境整備に投資することで、より多くの人に選ばれる施設になれるのではないか」と溝田施設長は語る。
スリランカ出身の介護福祉士ニワンティカさん。移乗は全てリフトで行う

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(シルバー産業新聞2023年6月10日号)

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