インタビュー・座談会

大阪大学 石黒暢教授に聞く デンマーク ウェルフェア・テクノロジーの現在

大阪大学 石黒暢教授に聞く デンマーク ウェルフェア・テクノロジーの現在

 高福祉先進国のデンマークでも、高齢者人口の増加と支え手不足の中で「ウェルフェア・テクノロジー」の導入が進められている。日本で普及が進まない天井走行リフトは、デンマークでは高齢者施設の天井にレールを埋め込んで使われるのが一般的で、在宅でも必要に応じてリフトが活用されている。デンマークの介護職や看護職は行政職員であるため、日本とは仕組みが異なる。大阪大学の石黒暢教授に聞いた。

市職員の介護人材

 北欧デンマークは、日本の約1割程度の国土面積に、約600万人が住む小国である。高齢化率は約20%。医療、介護、教育などの多くが税金で賄われる一方、税や社会保障の負担率は65%(ОECD数値、日本は47%)、と高福祉高負担の国として知られている。福祉サービスは98市(基礎自治体)がほぼ担い、介護職や看護職、セラピストなどの専門職は市の職員として従事している。

 自治体には各種福祉用具を集めた大きなセンターがあり、選定や利用支援、モニタリングにあたっては、OTやPTなどセラピストが居宅や施設に行きアセスメントを行う。

 一部に民間の介護事業所も存在するが、日本のように、社会福祉法人、株式会社、NPО法人など多様な経営主体が担う仕組みとは大きな違いがある。

電子政府のもとで 介護テクノロジー

 デンマークでは、2001年から行政の効率化を目指して、国をあげて電子政府化を推進してきた。その中で「ウェルフェア・テクノロジー」(福祉技術)の導入が進められている。ウェルフェア・テクノロジーの導入にあたっては、介護職員の労働組合と高齢者の当事者組織が政策決定プロセスに参画する。テクノロジーの活用を享受する側と担う側がしっかりと関わることで、政策の実効性を高めている。日本でも、高齢者施設に見守り機器などの介護テクノロジーを設置し、施設職員による委員会の運営を通じて、介護効率を向上させる施策が展開されており、今後の動向に注目したい。

 ただし、「ウェルフェア・テクノロジー」の定義についてはデンマークでも意見が分かれており、従来の介護機器から最新のICT機器までを広く捉える考え方と、産業育成の視点から最新ICT機器を主にする考え方がある。従来にないICT等の活用が目標になることに変わりはない。

施設・在宅でリフト

 デンマークで使われているウェルフェア・テクノロジー機器を挙げると、まず一般に普及していない温水洗浄便座がある。これはトイレでの自立を促進するために有効と考えられている。次に、天井走行リフトがある。施設の居室天井にレールが設置されており、リフト本体を取り付けて使用する。これにより、移乗時の安全が確保され、介護職員の腰痛防止にも役立つ。また、スタンディングリフトも活用する。利用者が自分の力を使うことによる筋力維持をめざしている。

 転倒した人を起こすために使用される起床・就床動作補助リフトは、組み立てて使うことができ、ポータブルなの
でヘルパーが専用の袋に入れて居宅などに持参することが標準になっている。介護機器はヘルパーの負担軽減に役立っており、デンマークでは人力で抱き起こすことは認められていない。

 スマホを使うデジタルキーは、独居の要介護高齢者などに活用する。掃除ロボットは現在では普及したので給付の対象から外された。一時期は認知症ケアの道具として、日本で開発されたアザラシ型ロボットが使われたこともあった。

 デンマークでは、新機種を介護現場のルーティン作業に入れ込めるかどうか、実験的な導入によって様々な評価を行う。介護職のスキルアップも行っている。

 制度上は施設と在宅に本質的な区別はなく、利用者個別のニーズに対応する。施設利用者は認知症ケアが中心。日本では施設で個別対応の用具利用がされないのは残念だ。在宅の利用者が入院・入所するとレンタルがストップするのも問題だと思う。(談)

(シルバー産業新聞2025年4月10日号)

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