インタビュー・座談会

著者にきく「奇跡の介護リフト」       モリトー会長 森島勝美氏

著者にきく「奇跡の介護リフト」       モリトー会長 森島勝美氏

 「介護リフトで介護者の負担を軽減し寝たきりの高齢者を無くす」。その思いで、日本の介護リフト市場をリードしてきたモリトー、森島勝美会長が、これまでいくつかの困難に直面し挫折を繰り返しながら一つ一つ改善を積み重ねてきた。そして様々な支援協力を得ながらリフトの開発と普及を進めてきた取り組みを1冊にまとめた「奇跡の介護リフト」(幻冬舎)を上梓した。リフトは全介助の移乗の道具からさらに自立支援も可能とする道具へと活用が広がろうとしている。

――なぜ、介護リフトは普及してこなかったのですか?

 理由は二つ。一つは介護リフトの普及に対して制度として、法律に介護労働に対する評価が明確に法制化されていないこと。「指針」にとどまっていること。

 二つ目は、介護リフトの本来の使い方、効果が正しく認知されていないこと。介護における介護リフトは、ベッドや車いすと同じレベルで評価されなければならないがほとんどの介護職の中でもいまだに知れわたっていないのが現状。私たちの力が弱いせいもあるが国策として取り組まなければならないレベルの問題でもある。介護、看護、セラピストなどの教育機関においても総力を挙げて取り組まなければ、日本の介護の問題、少子高齢化の問題など解決の道は遠のくばかりだ。

 欧米で介護リフトが普及した要素として、自立意欲、権利意識が旺盛で、労働環境、安全性についての意識が強い。多民族国家で人種差別等があり他人と体を触れ合うことに対して抵抗感が強い。日本では「手あて」「触れる」と言う看護の原点をあらわす言葉がありますが、機械で人を吊ること吊られることに対して、自分の母親もそうでしたが強い抵抗感があるように思われる。

ーー欧米で開発された用具を日本の住環境や生活スタイルで使うためには見直す必要があったのですね。

 30年前は、床走行リフトと天井走行リフトしかなくて、在宅で床走行リフトを持ち込むと、大きすぎて邪魔になったり、敷居の段差で部屋の出入りができなかったり、畳や絨毯にめり込んで重くて動きづらく、無理に動かすと揺れて利用者は怖い思いをした。
 
 私は、父が創業した医療機器卸を引き継いだものの、成熟した業態とSPDという新しい物流システムの席巻の中で、零細な流通事業者のままでは将来性はないと日々考えていた。そんな中、介護リフトと出会い、在宅で困っている方の切実な願いを聞くたびに何とかしたい、何とかならないものかと探し回りました。しかしどこにもそのようなものは見当たりません。やはり作るしかないのかと半ばあきらめの気持ちで日々の仕事に追われていた。いまから30年ほど前の1991年頃のことだった。
 
 ある工場の友人に、リフトを作ってくれないかと声をかけた所、いやいやながらも了解を得て製作にとりかかることになった。しかし失敗の連続で、素人が悪戦苦闘してもなかなか使えるレベルのものは完成できませんでした。当社のある愛知県一宮市は昔から織物が盛んで、紡績機の製造や機械設計する中小企業がたくさんあった。
 
 改めて何人かに自分のアイデアを持ち込み繰り返し検討しながら試行錯誤を繰り返し、93年に柱や壁にリフトを固定する設置型リフト「つるべー」が完成した。ベッドや風呂、玄関など各場所に支柱とアタッチメントを設置して、アームとモーターなどのリフト本体は共通に使えるという新しい形で、日本の家屋に最も適していると考えた。施設や病院などで使われる天井走行リフトと呼ばれるレール式のリフトもあったが、在宅では後付けの設置が難しかった。
 
 もう一つの課題だったスリングの開発では、多くの方々から教えを受けながら、サイズ感、形状、ストラップの幅、長さ、クッションの厚さ、生地の質、ベルトの厚さなど全面的な見直しを行った。吊り具に、「エヴァスリング」(未来に夢と希望をもって心豊かに生きる)と名付けた。じょくそう予防パットから生まれたスリング「パオ」は、包み込むような触感が高齢者介護現場の評判を呼んだ。 

――2000年の介護保険の影響はどうでしたか。

 介護保険はレンタル原則となり、大手レンタル卸で「つるべー」が採用されたのをきっかけに、全国でカタログに掲載するレンタル事業所がいっきに増えた。レンタルであっても、利用者のところに社員が出向き、設置や説明を行った。
 
 リフトの使い方がわからなければ誰も使わない。間違った使い方をすると評判も悪くなり危険な場合もある。使ってもらうためには、しっかり選定して満足を得てもらう必要があった。この方針をいまも堅持している。これからも病院や施設でも当たり前のようにリフトが普及していく環境を作るための体験会、研修会を実施していく。

――新しい介護リフトの使い方として移乗の道具から自立支援の道具へ機能を拡大していますね。

 一つは、ベッドからの離床を促し、端座位から立位、歩行へとつなげるために、体幹を支える「ハーネスライト」(介護保険の特定福祉用具販売対象)を開発した。転倒を防止しながら、端座位によって足の裏で体重を感じ、支えることで寝たきりを防止する。21年改定で創設された介護保険施設の「自立支援促進加算」では、毎日の離床や端座位を求めており、ハーネスライトの活用の場面があると考えている。

 最近では、公園にあるブランコのような「ぶらん歩」と言う吊り具を開発した。ベッド周りをActive空間にすることで自立支援の促進を図ることを目指している。

――リハ職は転倒リスクなしで歩行練習に集中できる?

  これは、藤田医科大学学長を務めた才藤栄一教授と「リフトを使った有効な歩行練習と歩行解析」で開発された、様々な安全懸架装置を利用することで可能となった。
 
これまでのリハビリでは、転倒リスクを回避するためにセラピスト一人か二人で体を支えながら歩行練習をしていた。しかし、これでは転倒の危険を感じながらの多面的な歩行練習にはなりません。安全懸架装置でぎりぎりの歩行練習が行える環境を作り、練習することが望ましいといえる。ほかには、免荷式リフトタイプの歩行車「POPO(歩歩)」を開発し、北欧で評価を得た。

――「奇跡の介護リフト」発刊のねらいは。

 介護リフトは介護者の負担を減らすだけでなく、介護を受ける人の生活の質を高め回復へつなげる効果がある。日々のアクティヴな日常生活をより快適に楽しく過ごせるようになることを広く知っていただきたいと考えている。

 介護リフトを使った歩行補助により行動範囲が広がり自力で歩けるようになる。寝たきりをなくそうとスタートした介護保険制度の中で、リフトの活用こそ自立支援の鍵になる、そう確信して本書を書いた。介護に関わる皆様の共感を得ることができたら幸いだ。ぜひ、多くの人たちに読んでいただき、リフトを試していただきたいと願っている。

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