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【特別対談】実践!リハビリ×栄養 /吉村覚さん、米山久美子さん

【特別対談】実践!リハビリ×栄養 /吉村覚さん、米山久美子さん

 「リハビリテーション栄養」は、高齢者・障がい者などへ「リハビリの内容を考慮したうえで栄養管理と、栄養状態を考慮したリハを行うこと」として若林秀隆氏(現・東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授)が提唱した考え方です。厚生労働省は2021年の介護報酬改定で、自立支援・重度化防止を効果的に進めるための柱の一つに「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の一体的な推進」を掲げ、各ケアの連携を高めるための専門職の関わり方などを明記しました。日頃より在宅介護に深く関わる理学療法士の吉村覚さん、管理栄養士の米山久美子さんに「リハビリと栄養の連携」について、実践事例を交えお話しいただきました

活動量を踏まえた栄養摂取を

 吉村 理学療法士を17年、現在は整形外科の通所リハビリに勤務しています。近年は医療保険より介護保険分野での活動が増えています。介護予防推進リーダー、フレイル対策推進マネジャーとして、自治体の介護予防教室などにも参加しています。

 米山 2018年に認定栄養ケア・ステーション「eatcoco」を立上げました。フリーランスの仕事も含め自宅や通所、障がい者施設などへ訪問し、食事や栄養の課題解決をサポートしています。

 最近では、都の高齢者等医療支援型施設で新型コロナウイルス感染症軽症者への栄養介入も行っています。

 共通していることは、管理栄養士は病態や生活状況、嗜好性などを考慮したうえで、栄養補助食品を一つ出すにも、根拠をもって提案できる専門職といえます。

 ――リハビリ・栄養は、日々の業務でどう関わり、お互いにどのような情報を活用していますか。

 吉村 リハビリが必要ということは、ケガや病気の治療中であったり、身体を動かす時期であることが多く、栄養はそのエネルギー源です。栄養がない状態でリハビリを行うことはあり得ません。血圧や脈拍、また新型コロナの影響で酸素飽和度も今まで以上に測定するようになりましたが、本来は栄養状態も同様にチェックしていくべきだと考えます。

 当事業所では体重測定を毎月行います。通所利用日には「ご飯が食べられているか」「どのくらい食べているか」「水分をとっているか」などを、簡単ですが口頭で聞き取り、体重減少が続いている方は、特記事項にその旨を書き、基本はケアマネジャーへ報告します。

 米山 体重(BMI)は栄養状態をチェックする大切な指標の一つです。低栄養状態が続くと、体重減少につながり、活動量が低下、ADLの悪化を招きます。

 体重減少の原因はさまざまですが、食べる機能(摂食・嚥下)と食形態が合っていない、食欲がない、食事を認識していない(認知症)、嗜好性などにより「単に食べられていない」ことが一つ。これ以外に、リハビリを含めた活動量に栄養が追いついていない可能性もあります。

 ですので、訪問時には普段どのくらい負荷のかかる運動や活動を行っているかを、本人や家族には必ず聞くようにしています。

 吉村 1日の基礎代謝量は約1200kcal。疾病者はこれにストレス係数を掛けます。運動する場合はさらに活動消費エネルギーを加えて計算し、それが1日に必要な摂取栄養量の目安になるわけですね。

 米山 「負荷のかかる運動」を実施しているのかどうかの確認がポイントです。私はよく「何となくではなく専門的に見てもらい、個々にあった運動・リハビリをしてください」と本人・家族に伝えています。必要なケースの場合にはケアマネジャーにも報告し、ご相談させていただいています。

 例えば、デイサービスを利用している方で運動が必要にも関わらず、脳トレやレクリエーションばかりで過ごしている場合。また、「運動はしている」と言っても、簡単な体操やマッサージを受けているだけの方など。食事摂取量は問題ないですが、十分な運動を行っていないため筋肉量減少+肥満という「サルコペニア肥満」も栄養課題の一つとして注目されています。

 吉村 リハビリと運動はイコールというわけではありません。例えば同じ腰痛でも、急性腰痛では運動は禁忌であったり、圧迫骨折では前屈やひねり動作をやりすぎてはいけないことがあります。

 これらを医師の管理のもと、身体のしくみや疾患から専門的にアプローチするのがリハビリです。運動メニューも全て根拠があり、明文化しています。

 米山 適切にリハビリを行えば歩行・移動が改善するだけでなく、栄養に関わる数値の安定・改善も期待できます。そうなると、好きなものを食べられる幅も広がります。リハビリと栄養の相乗効果です。

 吉村 在宅の利用者は施設と違い、複数の専門職が常に同じ場所にいるわけではありません。そのぶん、専門外での気づきや生活状況のちょっとした確認で専門職どうしを助けることができます。

 リハビリを行っている20分間でも、自宅での食事について色々と聞くことができます。

 「だんだん食べられなくなってきた」と相談を受けた利用者のケースでは、奥さんが食事を出すタイミングと自身の食欲とがなかなか合わず、実は奥さんの認知機能が低下していたことが分かりました。家族の変化に気づくきっかけにもなります。

米山久美子さん

(よねやま・くみこ)
 病院や施設、人間ドックや企業での栄養指導、特定保健指導を経験。その後フリーランスで活動し、2010 年地域栄養サポート自由が丘で居宅療養管理指導(訪問栄養食事指導)を開始。18 年に認定栄養ケア・ステーション eatcoco (イートココ)開設。認定在宅訪問管理栄養士、在宅栄養専門管理栄養士。日本在宅栄養管理学会関東・甲信越ブロック東京都副支部長・理事。

短期集中で栄養介入 「食べられる」安心感が体重増に

 ――お2人が実際に連携したケースをご紹介いただけますか。

 吉村 91歳男性で要支援2。最初はBMI22.3(体重59.3kg)と栄養状態は安定していました。「バスに乗って図書館へ行く」を目標に、通所リハビリの利用を開始しましたが、重度の腸イレウス(腸閉塞)で2カ月毎の入退院を繰り返すうちに体重減少がはじまりました。

 腸イレウスは食べ物や消化液が腸の中で吸収されずに止まってしまい、腹痛や吐き気などの症状が出ます。ご本人も食事に対する恐怖感がかなりあったようです。

 半年後の入院で腸の部分切除手術を行いました。退院時の体重は49kg、BMI18.4と低栄養がかなり進行。在宅復帰にあわせ、介護予防・日常生活支援総合事業の短期集中訪問サービス(C型)で、米山さんに介入してもらうことにしました。

 米山 月1回、3カ月の訪問を行いました。介入当初の食事摂取量は1日750kcal前後で、必要量の半分ほどでした。

 自宅の様子を見ていても、ふらつきがけっこうあったので、いったん通所リハビリを止めてもらうようお願いし、栄養状態を戻すことに専念しました。

 吉村 運動へのモチベーションが高い方でしたので、もしリハビリを続けていると無理をして、転倒していたかもしれません。

 米山 とても几帳面で真面目な方です。ずいぶん前に言われた食事制限のことを覚えていて、それを一貫して厳守していました。

 主治医に確認したところ、現時点での禁止食材、食事制限は特にありませんでした。制限を解除し「食べたいものを食べる」提案に切り替えました。食べることへの不安を取り除けたことが、今回の事例の第一ステップだったと思います。

 1カ月後、体重は2kg増え51kgに。BMIも19.2と、見込みを上回る改善状況でした。食事摂取量は目標1700kcalに対し1800kcalと充足。何より、訪問した際に、本人が立って玄関まで来てくれたとき「これはいける」と感触がありました。ここでリハビリを再開しました。

 吉村 筋力・筋持久力アップ、歩行耐久性向上を目標にリハビリ計画を立てました。もともと運動が嫌いな方ではなかったので、中断期間中も筋力が落ちていなかったことがプラス材料でした。

 食事について聞いても「うまいと生きている感じがする!」と、明らかに前向きな発言が増え、心境の変化がうかがえました。

 米山 その翌月(初回訪問から2カ月後)は体重53kg、BMI20.0とさらに2kg増。栄養剤は在庫が無くなるまで継続することを伝え、管理栄養士の介入は終了しました。

 吉村 誕生日にトンカツやケーキ、また別の日には好物のあんかけ焼きそばを食べることが叶いました。揚げ物はまだ少し不安とのことで、トンカツは衣を取って食べていました。

 生活にも変化が見られました。ゴミをあえて小分けにし、マンション脇のゴミ捨て場に何回か往復する。ご本人自らが考えた歩行トレーニングです。疲労具合をみながら、マシントレーニングの負荷量もアップできました。

 そこから2カ月後は体重55kg。正のスパイラルに入った印象がありました。膝を伸ばす力も上がってきたので、屋外歩行のリハビリも開始しました。近く(自宅から片道180m)の郵便局に行くのが日課でしたので、これを再開できることを目標としました。

 その後も順調に体重を増やし、米山さんの初回介入から1年経つ頃には、もとの59kgに体重が戻りました。

 米山 栄養状態は肌や表情にも出てきます。ちょうどその頃、地域で住民向けの栄養講話を開いたのですが、そこにご本人が来てくれて久々にお会いしました。会場が建物の2階でわりと急な階段だったのですが、とても元気な様子に驚きと安心を覚えました。

 吉村 米山さんから言われた「体重が56kgを超えると栄養剤を終了する」ことも、ちゃんとご本人は覚えていましたよ。

吉村覚さん

(よしむら・さとる)
 理学療法士。地域中核医療施設通所リハビリテーション科長を経験。2019 年より香取整形外科デイケアかとりにて従事。外骨格型移動支援装置 Keeogo (キオーゴ) の普及活動、都内を中心に介護予防支援活動を行う。日本理学療法士協会介護予防推進リーダー・フレイル対策推進マネジャー。日本リハビリテーション栄養学会正会員。日本 Keeogo 協会理事。
 ――効果的なリハビリ・栄養を実践するためのコツは。

 米山 今回のケースは、数字や計算が好きな人でしたので、現状と目標を数値化し、達成に向けて一緒に作戦を立てていく雰囲気づくりがうまくいった要因の一つかと思います。

 もう一つは、「好きなものを食べられる」「郵便局まで歩いて行ける」など、将来の姿を想像してもらい、モチベーションにつなげることです。私の場合「これを続ければ1カ月後に体重が1kg増えます」と、けっこう言い切ってしまいます。

 吉村 リハビリに関しては、可能な限り生活動作に落とし込むことがポイントです。「腹筋運動をする」ではなく「トイレから立ち上がる際にお腹に力を入れながらおじぎをする」が分かりやすい例かと。普段、運動をしない人に「運動をしましょう」と伝えても、多くの方はできません。

 今回は、担当ケアマネジャーの栄養に対する理解があったことが、円滑な支援につながりました。体重減少が続いている利用者には、とにかく介入のスピードが重要です。

 米山 職種連携で言うと、われわれがチームで動いていることを、本人や家族に認識してもらうことも大切ですよね。

 在宅介護を受けている方は主治医やケアマネをはじめ、様々な専門職と個別に関わっていますが、その延長線上は専門職のネットワークでつながっています。薬の困りごとを理学療法士に相談してもいいですし、福祉用具の困りごとを管理栄養士に相談してもいいのです。

 吉村 家族の支援も不可欠です。例えば、食事の姿勢が崩れている場合、気づいてもどこをどう直せばよいかは分からない。食事の際は、姿勢だけでなく視線も重要です。食事を置いた場所と視線が一致しないと、食事を認識してもらえず、家族は「どうして食べてくれないの?」となってしまいます。

 こうした部分を専門職が家族やヘルパーへ分かりやすく伝え、負担をかけすぎない範囲で対応してもらう。連携の一つの形だと思います。

 ――本日はありがとうございました。

(介護の日しんぶん2022年11月11日)

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