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リフトで移乗介助の快適さと安心感を実現/市川 洌 さん

リフトで移乗介助の快適さと安心感を実現/市川 洌 さん

 最近、介護における腰痛予防がよくいわれ、そのためにリフトを使おうと言われる。人が人を持ち上げる介助などあってはならない動作であるし、リフトを使えば腰痛の予防に大きな効果が期待できる。

人が人を持ち上げる介護

 最近、介護における腰痛予防がよくいわれ、そのためにリフトを使おうと言われる。人が人を持ち上げる介助などあってはならない動作であるし、リフトを使えば腰痛の予防に大きな効果が期待できる。

 しかしながら、リフトを使う目的は介助者のためだけではない。介助者の腰痛予防のためにリフトを使うということが強調されると、利用者がいやがる福祉用具を介助者のために使うということになりがちであり、介助者がリフトを使うことを躊躇する原因になる。

 リフトは利用者のために使うということも理解してほしい。利用者にとって、人に持ち上げられるより、リフトを利用した方がはるかに快適で安全である。具体的な例を示そう。

 ある特別養護老人ホームに入所したAさんは、まず車いすを変更させられたのに大きな不満を持った。

 今まで自分の身体の状況に合わせていろいろと詰め物をして工夫してきたのに(写真1)、新しい車いすが提供され、ほとんど詰め物をなくされたからだ。

 一つひとつ詰め物をとられるたびに、それを外せばあそこが痛むとか、あのときに困るなどと不満を言っていたのだが、適合が終わった車いすに座ってみたらまったく問題がなかったのでそのまま使うことにした(写真2)。

写真1 リクライニングの車いす 姿勢が崩れ、痛みが生じるのでいろいろなところに詰め物をして使ってきた

写真2 調節が終了した車いす フットプレート高さだけが調節しきれなかったので、クッションをおいている

移乗介助

 次にびっくりしたのが移乗介助でリフトを使われた時だ。

 いやでいやで仕方がなかったが、介護職の身体を守るために使うんだということを考えて、我慢することにした。自分の介助で介護職が身体を痛めるのは忍びなかった。リフトで移乗介助を受ける時は、いつも童謡の「揺り籠の歌」を歌って、気を紛らすことにした(写真3)。
 写真3 怖いので歌を歌って気を紛らわせた

 写真3 怖いので歌を歌って気を紛らわせた

 Aさんは入所してすぐに、入院しなければならなくなった。このときに、車いすが以前使っていたものに戻ったが、あまりの乗り心地の悪さにびっくりした。車いすが合わないというのはこういうことだと身をもって感じた。

 また、病院で移乗介助の際に二人がかりで持ち上げられた時、その怖さに唖然とした。ただでさえ不安定で怖いのに、看護師が誤ってAさんの足を少しベッドの縁にぶつけてしまった。その痛さと人に持ち上げられることの怖さにびっくりし、リフトによる移乗介助の快適さと安心感を再認識した。リフトで移乗介助を受けている時にはこんなに不安感を感じたり、どこかにぶつけられるというような不安はまったくなかった。

 退院して施設に戻ってからも、彼女はリフトによる移乗介助を受ける時は相変わらず「揺り籠の歌」を歌うが、これはリフト賛歌のつもりで歌っている(写真4)。
 写真4 リフトの意味が理解でき、快適に利用している。自分でできることは自分で

 写真4 リフトの意味が理解でき、快適に利用している。自分でできることは自分で

 彼女はこのような気持ちをある雑誌に寄稿してくれた(写真5)。介護職は彼女のこの体験を知らされて、自分たちのためだけにリフトなどの福祉用具を使用しているのではなく、間違いなく福祉用具を利用することによって、ケアの質が高められていることを確認できたのである。
 写真5 彼女の寄稿文「車いすの歌」

 写真5 彼女の寄稿文「車いすの歌」

市川 洌さん (福祉技術研究所 代表)
(福祉用具の日しんぶん2011年10月1日号)

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