連載《プリズム》

道具の見せ所

道具の見せ所

 ブラジルでは、オリンピックが終わり、リオ・パラリンピック(9月8日~19日)が開幕した。種目ごとに障がいのクラス分けを行いメダルを競う。(プリズム2016年9月)

 陸上競技やバスケットなどでものをいうのは、車いすや装具のちからだ。より軽く、より跳ねやすく、ヒューマンインターフェイスの優れた技術が勝利に直結する。選手とタッグを組む、義肢装具士やエンジニアなどの実力の見せ所である。トップアスリートにとって、シューズや水着の素材や形状が0.01秒の記録差となって現れるが、中でも障がい者スポーツにおける用具は、からだの一部となって競技を可能にさせ、成績を押し上げる。技術も道具も、実力のうちである。

 日本では、プロレーサーの長屋宏和さん(37歳)が今夏、多くの支援者とともに、車いすメーカーの技術協力を得て、富士登山に挑戦した。レース事故で頸椎損傷を負った長屋さんだが、自ら神経再生医療の臨床の体験や都内百貨店での服装ブランド店の立ち上げを行うなど、常に「あきらめない」を信念に、チャレンジャーとして人生を送っている。残念ながら、長屋さんの富士登山は急峻なブルドーザー道の砂に阻まれて、支援者の支えをもってしても電動車いすを引っ張り上げることができなかった。挑戦はまだ続く。

 障がい者支援の広がりの中で、車いすレースなどで培われた軽量化技術は、高齢者の車いすへの応用も進められている。一方で政府は税を投入して、介護分野に産業の新技術を適用して、ロボットを用いた支援を試み続けている。共用品が人々の生活に浸透する中で、障がいをもつ人も、支援者や用具の技術で生活の幅を広げている。

 福祉用具を活用すれば、できなかったことを「できる」に変えられる。障がい者スポーツと用具は不可分。同様に、介護保険の福祉用具は高齢者の生活をしっかりと支えている。要介護認定の判定においても、義肢義足などの福祉用具を前提にして支援の必要度合いを判定する。支援技術が下支えするパラリンピック、選手の「がんばる」を応援したい。

(シルバー産業新聞2016年9月10日号)

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