生き活きケア

ケアマッピングで行動を数値化/グループホームちゃんと(横浜市)

ケアマッピングで行動を数値化/グループホームちゃんと(横浜市)

 グループホームちゃんと(横浜市)は2018年、認知症の人の行動分析を行う「認知症ケアマッピング」に初めて取組んだ。大声で怒鳴りつけるなど、認知症周辺症状(BPSD)が強い利用者の、最も必要なケアが「会話」であることが明確に。ケアの最適化につながり、BPSDの改善だけでなく、職員の意識も変化した。(生き活きケア 142)

データを基にしたケアでBPSD改善 

日中の様子を5分毎に記録

 利用者のMさんは65歳だった2012年からGHの利用を開始。要介護4でアルツハイマー型の認知症と統合失調症を患っていた。普段の生活は車いすで、移乗には介助を必要とするが、移動の際は積極的な自走が可能だった。

 しかし、17年4月に体調を崩し、約2週間入院。退院後は、車いすの持ち手がわからず自走できなくなっていた。また、職員が自走の声掛けやリハビリに取組もうとすると「いじめないでください」と大声で言うなど、認知症周辺症状が現れていた。

 「ケアをしたくてもうまくいかない状況が続いていました。まずは、今のMさんが何を求めているかを明確にする必要があると考えました」と介護福祉士の佐藤修啓さんは話す。

 直接思いを聞くことが難しかったため、利用者の行動と気持ちの動きを数値化する、「認知症ケアマッピング」を取り入れた。

 同手法はまず、「一方的なコミュニケーションであり、相手からの反応がない状態」や「苦痛が放置されている状態」、「手芸または手工芸を行うこと」など24種類に分類された日常生活上の行為や状態を、約6時間、5分間ごとに記録し、それぞれの行動を+5、+3、+1、-1、-3、-5点の6段階で評価。合計点を記載する。積極的で周囲との関わりが多いほど点数が高く、関心が低い場合や怒りなどの負の感情が持続する場合ほど低くなる。行為そのものの良しあしではなく、その行為によって利用者の心情がどう変化したかを捉えるのが特徴だ。

 例えば、レクの一環で椅子を制作したとき、途中で壊れてしまったとしても、本人が笑顔で楽しそうにしている場合は点数が高くなる。

 Mさんの場合は12種類の行動が見られ、会話の特徴として、相手が関心を持っていなくても、話し続ける傾向があり、「一方的なコミュニケーションであり、相手からの反応がない状態」(表・U)でのマイナスが顕著だった。

 職員皆で改めて入院前のMさんの様子を思い返してみると、話好きで、特に昔話を良くしていたことに気が付き、会話による交流を強く望んでいると思われた。

データを基に最適なケアを提供

 他にも、会話の中からMさんの要望をくみ取るため、「個人回想法」を採択。Mさん自身のことを職員が尋ね、本人に人生を振り返ってもらい、自己を再評価してもらう。自尊心も回復させる療法だ。

 回を重ねるごとにMさん自身の思いも話してくれるようになった。頻繁に発していた「いじめないでください」という言葉が、体が思うように動かず不安になるときに出してしまうと伝えてくれたことで、本当は「助けてほしい」という意味だと気がついた。

 これらの取組みを基に、新たな方針として「10分以上じっくりと会話する時間を設ける」「『いじめないで下さい』と言われたときはすぐに介助を行う」ことを取り決めた。回想法も継続し、ケア開始から約1カ月半後には「いじめないでください」と訴えることはほとんどなくなった。

 翌年、2回目のケアマッピングを実施。コミュニケーション以外に、マイナスの幅が大きかった「歩行・車いす移動・立ち上がり」(K)や「苦痛が放置されている状態」(D)の2項目でも目立った改善が見られた(グラフ)。

 佐藤さんは「初めて取組む手法でしたので不安もありました。ですが、改善が客観的な数値で明確になったため、正しいケアにつながっていたという確証が得られました」と話す。また、「現場職員に利用者個々人をもっと理解したいという考えが浸透し、ちょっとした言動の変化にも敏感になりました」と自信をのぞかせた。

(シルバー産業新聞2019年2月10日号)

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