生き活きケア

生き活きケア212 本場の味で人生を豊かに

生き活きケア212 本場の味で人生を豊かに

 ソーシエ(横浜市、大須賀和亮社長)は、シェフが手作り料理を提供する通所介護事業所「シェフズデイサービス」を東京と神奈川で10カ所運営している。中華やイタリアン、和食など、飲食店経験のあるシェフが在籍し、本格的な味を楽しめるのが特徴だ。今回は「シェフズデイサービス湘南」を取材した。

 シェフズデイサービスでは、施設内で全ての食事を手作りしている。「おいしいと笑顔があふれる場所」をコンセプトに、食事の味だけでなく、調理中の音や香りなど利用者に五感で楽しんでもらう工夫をしている。

 ソーシエグループ介護事業部の宮地優輝マネージャーは「年齢に関係なく食事は楽しみの1つ。空腹を促して食事に積極的になって頂ける空間づくりを意識している」と説明する。

 同社では、利用者や家族の他、地域のケアマネジャー向けに試食会や見学会を実施し、実際の味を体験してもらっている。ケアマネからは「介護サービスを利用することに抵抗がある人でも、『美味しいごはんを食べに行こう』と気軽に通える場になっている」と好評だという。

 また、食を通じて生活の質が向上した事例も多い。例えば、ケガなどで引きこもりがちだった人が、食事の楽しみを取り戻し、活動量や体重の改善につながったケースがある。糖尿病の利用者の中には、医師の許可を得た上で、週に一度の食事を楽しみに通う人もいるという。

 湘南事業所の管理者・日比謙一さんは「外食に行く感覚で通ってもらうことが、外出支援や社会参加にもつながる」と話す。

 同施設の食事代は1食650円。コストを抑えつつ、旬の食材を積極的に取り入れている。メニューは決まっておらず、出勤したシェフが冷蔵庫の食材を見て、その場で献立を考える。

 「事業所内で調理をしていると何を作っているのか、どのように調理しているのかが職員にも分かるので、利用者との会話も弾む」と日比さんは話す。

調理技術を生かした食べやすい工夫

 取材した日は突然の夏日でじんわりと汗ばむ天気。料理長の加藤利亮シェフは夏野菜と酢をふんだんに使い、身体を冷やして疲れをとる中国料理を作っていた。

 お昼頃になるとナスやお肉を揚げるパチパチ、ジュワッという音が響き、甘酢の香りが漂うと、利用者たちは「いい香り」「お腹がすいてきた」と食事を心待ちにする様子だった。食事が届くと30分ほどで9割の利用者が完食した。
目で食事を楽しめるよう、色合いや盛り付けまでこだわる

目で食事を楽しめるよう、色合いや盛り付けまでこだわる

 加藤シェフは16年間中国料理のコックを務めた後、独立して自身の店を経営。その後、シェフズデイサービスに設立当初から加わり約10年になる。野菜ソムリエや薬膳の資格を持ち、今でも中国や台湾で本場の料理を学び続けている。 また、調理技術を応用して高齢者が食べやすい工夫にも取組んでいる。例えば、今回のメニューの鶏肉団子の甘酢ダレは、鶏肉に卵の他にスープと片栗粉を加えて揚げることで、ふんわりなめらかな食感に仕上げている。さらに、広東風の赤甘酢にとろみがついており、食べやすさが増す。

 利用者の摂食嚥下状態に合わせて刻みやペースト食にも対応。ペースト食でも彩りや見た目を意識した盛り付けに力を入れている。

 例えば豚の角煮では、全て混ぜてペーストにするのではなく、角煮は細かく刻んでタレにとろみをつけて食べやすい工夫を施し、青菜ペーストは水の代わりに中華スープで伸ばすことで、美味しく提供できる。

 加藤シェフは「昼食の一瞬の時間でも『美味しい、綺麗』と感じてもらうことが大切。中国料理のコックとして私がこれまで培ってきた技術や知識を活かし、安全でおいしい本場の料理を提供したい」と語る。

 現在同社には2人のシェフが在籍し、10事業所を巡回している。シェフ不在の日でも高い品質を保つため、職員向けのオンラインサイトでシェフ考案のレシピや調理方法を公開。主菜からデザートまで多彩なメニューを掲載し、職員が安心して調理できる環境を整えている。

 マネージャーの宮地さんは「今後は調理マニュアルの整備にも力を入れ、よりおいしい食事の提供を目指したい。これからも、食を通じて利用者の生活を豊かにしていきたい」と語った。
日比さん(左)と加藤シェフ

日比さん(左)と加藤シェフ

(シルバー産業新聞2025年4月10日号)

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