生き活きケア

40人と20匹の大家族/さくらの里山科(横須賀市)

40人と20匹の大家族/さくらの里山科(横須賀市)

 特別養護老人ホーム さくらの里山科(神奈川県横須賀市、若山三千彦施設長)は全国でも珍しいペットと暮らせる特養だ。9月末時点で40人の入居者と犬猫それぞれ10匹が一緒に暮らしている。

大家族のような温かみ

 保健所から引き取った子、入居者が家にいたときから一緒に暮らしている子、先に飼い主が山科で亡くなった子、山科に来た経緯は様々だが、皆が入居者や職員から大きな愛情を受けている。

 さくらの里山科は100床の特別養護老人ホーム。ユニット型で、3フロアある居室のうち、2階がすべて動物と暮らせるフロア。犬と暮らせる「ワンズユニット」と、猫と暮らせる「ニャンズユニット」がそれぞれ2ユニットあり、現在、40人と20匹がともに暮らしている。

 犬猫はユニット内でキッチン以外を自由に歩き回れ、居室の出入りも気の向くまま。利用者も扉を開けたままにして、部屋に入ってくると嬉しそう。横になっているとベッドに上がってくることもあるそうだ。一緒のソファーでくつろぐ人、抱きしめながら気持ちよさそうに眠っている人、触れ合い方は様々で、まるで大家族のよう。

 犬猫ユニットの職員は全員が動物好き。自宅や実家で飼っている人が多く、世話の仕方もわかっている。普段の業務に、犬猫の世話が加わるが、負担はあまり感じないそうだ。毎日の散歩はボランティアにも助けてもらう。
 餌代や医療費は一緒に入居した利用者が負担し、保護された犬猫分は施設が負担する。

家族とのつながりが復活

 犬猫ユニットに入居を希望する人は、もともと自宅で飼っていて一緒に入居した人のほかに、自身が高齢になって何かあった時にペットを不幸にしてしまうとの不安から、飼うのをあきらめた人もいる。

 ペットと一緒に入居した人の中には、重度の認知症で感情が乏しく、家族の顔さえも分からなくなった人もいたそうだ。しかし、たくさんの動物たちや、自身と同じように動物が大好きな利用者と触れ合ううちに感情がよみがえり、次第に、家族の顔がわかるようになった。最終的にはコミュニケーションが再びとれるまで回復したという。

 運営を続けていると動物愛護団体の「ちばわん」から協力の声がかかるようになった。依頼を受けて中庭を開放して保護犬、保護猫の譲渡会なども行っている。
 部屋で大好きな利用者に甘える

 部屋で大好きな利用者に甘える

当たり前の暮らしを続けられるように

 「アニマルセラピーや動物愛護のために始めたわけではありません」と若山三千彦施設長は強調する。

 山科設立にあたっては、ある高齢男性の悲痛な声がきっかけだった。その方は自宅から施設に移る際に、長年連れ添ったペットを保健所へ連れて行かざるを得なくなった。

 「半年後に亡くなるその直前まで、毎日のように『俺が家族を殺してしまった』と、自分を責め続けていました」。若山氏は、ただペットと一緒に暮らしたかっただけなのに、こんなに悲惨なことが二度とあってはいけないと、設立を決心したという。

 好きなものを食べたい、好きなところに行きたいを実現するのと同じ。あくまでも利用者のQOLを高めることが根底にあった。
 若山三千彦施設長と文福

 若山三千彦施設長と文福

「死」が見える犬 文福(ぶんぷく)

 不思議な能力を持つ子がいる。雑種の犬で、名前を文福といい8年前に保健所からやってきた。保健所には犬を収容するための7つの部屋が並んでおり、7日目にガス室へ送られてしまう。文福は6日目にボランティアに引き取られ、何とか命がつながった。
 死の直前を経験した影響か、人の「死」に非常に敏感で、利用者が亡くなる3日程前になると居室の前に座り込むそうだ。その後、部屋に入るようになり、亡くなる直前にはベッドに上がり、一番近くに寄り添うという。「文福がそばにいることで、非常に穏やかな表情で最期を迎えられます」と若山施設長は語る。
保健所でがりがりだった文福は山科に引き取られた今では幸せそうな表情を浮かべる

保健所でがりがりだった文福は山科に引き取られた今では幸せそうな表情を浮かべる

(シルバー産業新聞2020年11月10日号)

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