現場最前線の今

「恵」事件と障害福祉サービス事業の構図                 NPO法人自閉症eスタイルジャパン理事庁中山清司

 全国約100カ所の障がい者グループホームを運営する恵(東京都港区、中出了輔社長)が、愛知県内26カ所のホームだけで総額2億円以上の食材費を過大徴収し、障がいのある入居者への経済的虐待をおこなっていたと認定された。

 また、組織ぐるみで職員の出勤簿を偽装し、障害福祉サービスの報酬を不正受給していることも明らかになった。いくつかのホームでは、職員による入居者への身体的虐待・心理的虐待も報告されている。
今年6月、厚生労働省は「恵」にいわゆる連座制を適用し、全国各地にあるグループホームの指定更新を認めない行政処分を下した。同社のグループホームは指定更新時期を迎えると順次運営ができなくなり、今後、約2千人の入居者がホームを退去させられる事態に陥る可能性がある。

 同社への行政処分に際し、厚生労働大臣は「各自治体に対し、地域の関係団体などとも連携していただくなど、利用者の皆様が引き続き安心して日常生活を送ることができるよう万全の対応をお願いした」とコメントしている。
一方、愛知県知事も「県として、名古屋市や中核市のほか、厚生労働省とも常に情報共有して、利用者が不都合なく、適切な福祉サービスが受けられるよう、全力を挙げてサポートしていきたい」と述べている。

 福祉サービス事業所で給付費の不正受給や障がい者虐待が明らかになると、国や所轄自治体は当該事業所や運営法人に対し相応のペナルティーを科す。悪質な場合は、今回の「恵」のように指定取り消しや追徴金を伴う給付費の返還命令となり、実質、事業所の運営が不可能となることもよくある。
が、そこで問題になるのは、そのような福祉サービス事業所を利用している障がい者の保護はどうなるのか、ということだ。なるほど「恵」のような悪質な民間会社を放置していいわけはない。しかし、利用していた障がい者は被害者であって、何ら責められるいわれはないはずだ。

 しかしながら、現状の障害福祉サービス制度では、国や自治体は事業所に対して指定取り消しなどの行政処分をおこなうが、そこに居る利用者については「万全の対応をお願いしたい」「全力を挙げてサポートしていく」と言うだけで、国・自治体の責務として利用者の保護・居場所の保障を担うわけではないのである。

  下図の通り、障害福祉サービスにおいて、行政は事業所の指定や給付費の支給決定・支給支払いを担う立場となる。具体的な障害福祉サービスの利用と提供は、障がいのある利用者と福祉サービス事業を運営する事業者との当事者間の利用契約で決まる。
 つまり、今の事業者(事業所)がなくなってしまったら、利用者は他の事業者(事業所)を探して新たに利用契約してください、という自己決定・自己責任の理屈になっている。
 「恵」事件は、このような制度上の建てつけが、障がいのある利用者の暮らしにいかに不十分で危ういものであるかを物語っている。

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