地域力発見
埼玉県の自立支援型地域ケア会議① 志木市の場合/宮下今日子(連載81)
地域ケア会議は、15年度から法的に位置付けられたが、埼玉県では「自立支援型地域ケア会議」と名付けた独自の会議を進めている。
現在、県下63自治体のうち、53自治体で実施し、そのうち、34自治体でモニタリングを行い、結果を把握している。県ではリハ職を中心とした「総合支援チーム」を組んで各自治体をまわり、模擬会議などを実施している。
同会議は和光市のコミュニティケア会議を手本とし、介護保険法の理念である「自立支援」を大きく打ち出している。医療職を中心とした多職種によるアドバイザーが入ること、時間が1事例20分程度と制限されている点などが特徴だ。今回は、志木市の会議について、市の担当者と会議に参加したケアマネジャーに話を聞いた。
志木市は、全国で6番目に面積の小さな市。居宅介護支援事業所の数も十数カ所。導入のいきさつについて市の斉藤久美子氏(長寿応援課いきがい支援グループ主査)は「介護保険制度当初の、利用者の自立を支援するという点が、時を経るにつれ、サービスをあてがうという方向に変わってしまった」と話し始めた。16年度から準備を進め、まず、居宅のケアマネジャーを集めて自立支援に基づく会議の目的を説明。17年に同市の他、行田市、鴻巣市をモデルに、県が立ち上げ支援を行った際、担当の理学療法士の支援の下で研修を2回、模擬会議を3回行った。
同会議出席のアドバイザーは、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、歯科衛生士、医師(隔月参)、生活支援コーディネーター(社協に所属)。それ以前の市の地域ケア会議は、困難事例を中心に、市内5包括を中心に行ってきたが、その時には、包括の3職種と関わりのある職種のみで、リハ職などはいなかった。この違いは大きいと話す。
当初、傍聴などで先進地の会議の様子を見たケアマネジャーは、会議に拒否感をもっていたという。そのため、会議ではケアマネジャーが発言する機会を多くもつように努めた。アドバイザーを講師とした研修も開催したそうだ。
二渡睦美所長(志木市社会福祉協議会 居宅介護支援事業所)は、当初抱いていた会議のイメージは怖かったと話し、事例抽出の苦労や会議の準備、会議内容、プランの見直しなどを話してくれた。
選んだ事例は、軽度の脳梗塞により、片麻痺が残った70歳代前半の女性。訪問、通所、福祉用具を利用する要支援1の方。
まず準備段階で、普段とは全く違う書類に戸惑った。項目も細かく、例えば歯ブラシの減り具合までチェックするようなアセスメントシートで、記入に時間がかかり、包括に担当者を呼んで打ち合わせも行った。
会議では、薬剤師から薬の変更があったことの確認を、管理栄養士から食事内容を聞かれた。会議を受けて本人と相談し、市の食事サービスを進めたが拒否された(本人は好きなものを食べたい)ので、運動を進め、自治体事業の介護予防教室に3カ月通うプランを付け加えた。その結果、肩回りがよくなり、洗濯物を干せるようになった。
保険以外のサービス導入や、その結果、活動量が上がった点は評価するが、3カ月が過ぎた現在は、教室に行かなくなってしまったそうだ。二渡氏の話から、会議はもちろん、会議の事前準備でもアセスメントの精度を上げたように感じるが、日常業務でいかに同様にできるかが今後の課題だと話す。このため、志木市では9月からモニタリングを始めるとのことだ。
志木市には独自事業の「デマンド交通」という外出支援サービスがある。ケアプラン作成には、こうした地域資源が豊富にあることが望ましい。地域ケア会議の機能には、実は「政策の形成」も含まれる。地域課題の発見、不足するサービスの指摘、そして創出に繋げるという一連のダイナミズムも視野に入れたいものだ。
宮下今日子
(シルバー産業新聞2019年10月10日号)
同会議は和光市のコミュニティケア会議を手本とし、介護保険法の理念である「自立支援」を大きく打ち出している。医療職を中心とした多職種によるアドバイザーが入ること、時間が1事例20分程度と制限されている点などが特徴だ。今回は、志木市の会議について、市の担当者と会議に参加したケアマネジャーに話を聞いた。
志木市は、全国で6番目に面積の小さな市。居宅介護支援事業所の数も十数カ所。導入のいきさつについて市の斉藤久美子氏(長寿応援課いきがい支援グループ主査)は「介護保険制度当初の、利用者の自立を支援するという点が、時を経るにつれ、サービスをあてがうという方向に変わってしまった」と話し始めた。16年度から準備を進め、まず、居宅のケアマネジャーを集めて自立支援に基づく会議の目的を説明。17年に同市の他、行田市、鴻巣市をモデルに、県が立ち上げ支援を行った際、担当の理学療法士の支援の下で研修を2回、模擬会議を3回行った。
同会議出席のアドバイザーは、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、歯科衛生士、医師(隔月参)、生活支援コーディネーター(社協に所属)。それ以前の市の地域ケア会議は、困難事例を中心に、市内5包括を中心に行ってきたが、その時には、包括の3職種と関わりのある職種のみで、リハ職などはいなかった。この違いは大きいと話す。
当初、傍聴などで先進地の会議の様子を見たケアマネジャーは、会議に拒否感をもっていたという。そのため、会議ではケアマネジャーが発言する機会を多くもつように努めた。アドバイザーを講師とした研修も開催したそうだ。
二渡睦美所長(志木市社会福祉協議会 居宅介護支援事業所)は、当初抱いていた会議のイメージは怖かったと話し、事例抽出の苦労や会議の準備、会議内容、プランの見直しなどを話してくれた。
選んだ事例は、軽度の脳梗塞により、片麻痺が残った70歳代前半の女性。訪問、通所、福祉用具を利用する要支援1の方。
まず準備段階で、普段とは全く違う書類に戸惑った。項目も細かく、例えば歯ブラシの減り具合までチェックするようなアセスメントシートで、記入に時間がかかり、包括に担当者を呼んで打ち合わせも行った。
会議では、薬剤師から薬の変更があったことの確認を、管理栄養士から食事内容を聞かれた。会議を受けて本人と相談し、市の食事サービスを進めたが拒否された(本人は好きなものを食べたい)ので、運動を進め、自治体事業の介護予防教室に3カ月通うプランを付け加えた。その結果、肩回りがよくなり、洗濯物を干せるようになった。
保険以外のサービス導入や、その結果、活動量が上がった点は評価するが、3カ月が過ぎた現在は、教室に行かなくなってしまったそうだ。二渡氏の話から、会議はもちろん、会議の事前準備でもアセスメントの精度を上げたように感じるが、日常業務でいかに同様にできるかが今後の課題だと話す。このため、志木市では9月からモニタリングを始めるとのことだ。
志木市には独自事業の「デマンド交通」という外出支援サービスがある。ケアプラン作成には、こうした地域資源が豊富にあることが望ましい。地域ケア会議の機能には、実は「政策の形成」も含まれる。地域課題の発見、不足するサービスの指摘、そして創出に繋げるという一連のダイナミズムも視野に入れたいものだ。
宮下今日子
(シルバー産業新聞2019年10月10日号)