住み替えを選んだ人のその後

フラワーアレンジメントで就労支援/栗原道子(連載15)

フラワーアレンジメントで就労支援/栗原道子(連載15)

 東京都港区南青山は、高級感漂うおしゃれな街。そこに建つビルのワンフロアに「アプローズ南青山」がある。知的・精神障がいや発達障がいのある人たちが、フラワーアレンジメントの技術を学びながら働く場として、2014年4月にオープンした東京都指定就労継続支援B型事業所である。

 代表の光枝茉莉子さんは、以前は東京都福祉保険局で8年間働いていた。その間に、障がい者の職業選択の幅の狭さや、工賃の安さに疑問を持ったという。また、それらの問題を解決するため、なぜ福祉施設が自ら立ち上がらないのかとも感じていた。

 行政の補助金や給付金に全面的に頼るのではなく、事業所自体が自立した経営を目指すこと、また障がい者自身も経済的に自立できるよう支援したいと考え、30歳になる直前の都庁在職中に、法人を設立した。その後まもなく退職し、アプローズ南青山を開設した。
 花を扱う仕事にしたのは、喜んで、楽しく働けるものをという思いから。花は誰かを喜ばせたり、励ましたり、気持ちを伝えられたりできる。イベント等で自分がアレンジした花が飾られれば、スタッフが自身の仕事の成果を実感し、自信を持てるようになると考えた。しかし当初は、光枝さんは花の仕入れやビジネスには全く無知だったという。そこで、横浜にあるセンスの良さそうな花屋さんをインターネットで見つけ、訪問した。「障がい者スタッフのために花の技術を教えてほしい」と交渉し、花屋さんのご夫婦が「花で社会貢献ができれば」と言って協力してくれたのが最初の一歩となった。
代表の光枝茉莉子さん

代表の光枝茉莉子さん

 アプローズ南青山の利用者は、区内の保健所や計画相談事業所等からの紹介で来る人が多い。就労者の登録人員は約30人。1日に15~20人が、自分の体調に合わせた時間で仕事をする。

 花は純粋に商品として販売しているため、クオリティーの高いものでないと高く売れない。販売収益を障がい者スタッフの工賃として支払うので、商品の仕上がりは良くなくてはならない。そこで、花の技術指導員を募集し、今では専門のメンバーが4人いる。

 起業のために用意した資金はすぐに底をつき、政府系の金融公庫に融資をしてもらい、なんとか最初の1年を持たせたというが、開設2年目からは軌道に乗ってきた。

 花の仕事の営業活動は光枝さん自身も行うが、今は営業専任の職員もいる。さらにオンラインでの注文も増えてきた。母の日やクリスマス前は大忙しだという。

 実際に作業風景を見せてもらうと、かごにアレンジメントした花のほか、台紙に小さな花びらを張りつけてかわいいメッセージカードを仕上げている人、花器にプリザーブドフラワーをあしらうなど色々な作業が行われている。

 珍しい紫の蘭の花かごも見せてもらった。皆さんできたものを嬉しそうに見せてくれる。一人ひとりが自分の仕事に熱中しており、明るい意欲を感じられる作業現場だ。

 今では外務省からも、公共施設の年間装花を任されるようになった。また、港区麻布地区の街路を彩る緑化作業も、今年度から委託を受けるという。
母の日のメッセージカード

母の日のメッセージカード

 光枝さんの目標は、人通りに面した店舗を持つこと。注文を受け、客の好きな花をその場で話し合いながら、一緒に選ぶという対面の仕事は、社会との接点を持ちづらい障がい者にとって、回復の手助けになるのではないかと考えている。

 生きづらさや働きづらさを抱えた人が、社会の中で働きながら自立していく姿は、他の障がいをもった人への応援にもなる。その一つの方法として、花屋さんを持つことを目指し、日々活動している。(つづく)
(シルバー産業新聞2021年6月10日号)

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