介護保険と在宅介護のゆくえ

緊急事態宣言解除と介護福祉の課題/服部万里子(連載99)

緊急事態宣言解除と介護福祉の課題/服部万里子(連載99)

 5月14日に新型コロナウイルスに対する39府県の緊急事態宣言が解除され、5月25日には首都圏・北海道の緊急事態宣言が解除された。新型コロナウイルスとの戦いは1つの区切りを迎えたが、感染者は5月25日時点で1万7305人、死者は865人と短期間で大きな影響を与えた。今回は、新型コロナ対応の課題と教訓について見ていく。

国の対応の不十分さ

 国による感染者の増加に対する医療体制の不備、PCR検査の可否判断や検査体制不足などで国民の不安が高まった。3密(密閉・密集・密接)を避けることで感染爆発は抑えられたので、政策の成果とは言える。しかし、医療機関のマンパワー不足、感染予防対策物品の不足などで医療現場を追い詰めた。自粛要請による店舗の休業、在宅勤務の導入などが全国的に行われたが、国の対応や支援は不十分だ。

国民生活の課題と教訓

 全国での一斉休校から、食事や家庭生活の対応、子供の教育の遅れなど不安が高まってきた。さらに外出や娯楽の自粛、リモートワークの拡大により、家庭内での暴力や近隣トラブルも増えてきた。

 社会生活では就労機会の削減により、1万人規模の解雇や雇い止めが発生し、経済的に困窮する人を増やし、生活保護申請が急増した。制度的な対応が急務だ。

 6月から保育園や学校が全国的に再開され、段階的に生活の緩和がされていく。貴重な1カ月半を振り返り、災害や感染等の非常事態への対応力をつけることが大切だ。

介護福祉の課題と教訓

 介護福祉では、頑張る介護職への公的支援、経済的支援の不足が大きな課題だ。

 感染予防をしながらサービス提供する現場への人、物、金の支援が、国の補正予算などで、ようやく具体化されてきたところだ。密集を避け、窓を開け、手洗い・消毒し、マスクでの対応で利用者を受け入れる施設やショートステイ、通所サービスへの支援が早急に必要だ。

 「自主的休止」の通所サービスでも、万が一の感染で併設施設への影響を配慮せざるを得ないところもある。

 また、過密を避け時間や人数を制限して対応した通所でも、「利用者の自粛」により経営的に困窮した事業所もある。それぞれの努力への共通した支援金が求められる。

 訪問介護は「不安のため話がしたい利用者」と、外出できず買い物に困る新規の軽度生活支援の増加に向き合い、ヘルパー自身と利用者の感染予防の狭間で苦闘してきた。また、家族が在宅勤務のためサービスを断る利用者もいる。認知症や独居の高齢者には人一倍の注意を行い、支援をしなければならない。個々のニーズと生活支援の難しさ、大切さを再度認識した上で、介護報酬などを見直すことが必要だ。

介護保険改正と全世代型社会保障の課題へ向き合おう

 閣議決定された改正介護保険関連法案が国会で論議される際には、「軽度者の切り捨て」や自費の導入がないか注目しよう。そして、国が進めている「全世代型社会保障」は「共生社会」の美名のもと、70歳までの雇用を企業に義務化して働く人を増やし、非正規雇用者も年金に加入させ、児童福祉から障害福祉、高齢者福祉を「税による福祉サービス」から「保険制度」に移行させる動きが進められていく。
 
 75歳以上の後期高齢者医療は、2割負担を基本にする方向だ。

 今年度は共生型サービスの実施に向け、通所、ショートステイ、小規模多機能(看護小多機も)の介護保険事業所が、障がい児や障がい者を受け入れるための改修に対して補助金が予算化され、「共生型サービス」の具体化が進められようとしている。その先を見ながら考えていく必要がある。

服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2020年6月10日号)

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