介護保険と在宅介護のゆくえ

利用者も事業者も翻弄された介護保険の20年/服部万里子(連載96)

利用者も事業者も翻弄された介護保険の20年/服部万里子(連載96)

 介護保険制度は2000年4月から始まり、20年を迎えた。

 この20年は利用者にはサービス切り下げと自己負担増の連続だった。事業者にとっては「これから高齢化が急速に進んで利用者が急増し、費用の9割が保険給付なのでとりはぐれがない。介護は新たな成長産業」と誘導され、福祉を産業化したあげく捨てられた20年だった。

 かつて家族は「福祉の含み資産」と想定され、家族頼みの福祉政策が実施されてきた。介護保険制度はこれに歯止めをかけ、「介護の社会化」を掲げて40歳以上の国民から強制的に保険料を徴収する仕組みを創設した。しかし、この20年で介護離職は倍増し、介護者による虐待は増え、「介護の社会化」の理念は風前の灯である。そして国は介護保険の年齢引き下げから「全世代型社会保障」へ、新たな勤労者皆保険制度へと転換しようとしている。

高齢者医療から「保険制度」への転換

 介護保険の特徴は、それまでの税金による老人福祉を、40歳から死ぬまで保険料を強制徴収する「保険制度」に転換したことである。また、老人医療保険から、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、老健施設、療養型医療施設、医療ショートなどを、介護保険サービスに組み入れて財源を介護保険にした。どこでも必要なサービスが使える、1割で使える、サービスが選べる、ケアマネジャーが相談にのる、老後は安心だとPRした。新たなビジネスチャンス到来とサービスへ民間事業者を誘導し、あらゆる業界がシルバー産業に参入した。

05年から軽度者切り捨て、自己負担増

 介護保険はこれまで5回の法改正が行われ、要介護1を要支援に移行して介護予防給付にし、要支援の訪問介護、通所介護が介護給付から外れた。また、特養ホームの入所者は原則要介護3以上に変わり、20年改正では要介護2までの生活援助とデイサービス外しが提案された。
 利用料は2割負担、3割負担が導入され、20年は一律2割負担とする案も出された。施設入所者への補足給付の一部カットや、非課税世帯への減額(補足給付)も条件が厳しくなり、利用者負担は増すばかりである。  
 サービス事業所は6年ごとの指定更新制、介護サービス情報の公表制度、集中減算の導入などに加え、地域密着型サービスへの移行、指定権限の市町村移行、指定拒否など年々厳しく統制されるように変化した。

地域包括ケアの創設、 深化から市町村への権限移行

 介護報酬は03年(▲2.3%)、06年(▲2.4%)、09年(+3.0%)、12年(実質▲0.8%)、14年(+0.63%)、15年(▲2.27%)、18年(+0.54%)、19年(+0.39%)と8回改定され、その多くが実質マイナスと事業者には厳しい改定が続き、21年も大幅なマイナス改定が予測される。

 国は医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つを日常生活圏域で確保する、地域包括ケアを打ち出した。内実は退院を促して地域への移行を進め、医療保険から介護保険への転換を図り、その推進を地域密着型サービスで行うものである。

 地域包括ケアでは、利用回数にかかわらず「介護度別一律報酬」の小規模多機能、看護小規模多機能、定期巡回サービスへの転換を進めてきた。これらは指定権限が市町村になる。さらに、介護予防や認知症対策など市町村の取り組みに対して交付金を出すなど、自治体へ権限と責任をシフトする取り組みが進められてきた。

全世代型社会保障への転換

 国は今後の方向として女性、若者、高齢者、障がい者など、だれもが働き、年金保険・健康保険を払い続ける「勤労者皆保険制度」により、児童から障がい、生活困窮者、高齢者まで幅広くカバーする「令和の社会保険」を作ろうとしている。

 また制度の枠組みを超えた共生型サービスが開始され、今後広げる方向である。しかし、保険制度は保険料を払わない人は利用できず、受けたサービスに応じて負担する制度であり、福祉制度から保険制度への転換に伴う課題は多い。

服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2020年3月10日号)

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