介護保険と在宅介護のゆくえ

地域共生社会実現を掲げた法改正と負担増/服部万里子(連載100)

地域共生社会実現を掲げた法改正と負担増/服部万里子(連載100)

 新型コロナウイルス感染拡大による影響で遅れていた、介護保険見直し作業だが、6月12日に関連改正法案が法制化され、来年4月1日から施行される予定だ。今回は大規模な制度改正ではないが、注目すべきポイントが以下の3点に挙げられる。

「福祉から保険」への胎動

 第1は「地域共生社会の実現の具体化」だ。それと関係して、第2に認知症施策の具体化、第3にケアマネジャーやサービス事業所の質の向上と効率化がある。

 この改定では、国が「一億総活躍社会」の号令のもと働き手を増やし、「共生社会の実現」として、高齢者や家族、障がいを持つ人、児童も含め、福祉制度から保険制度への移行を目標としたステップとみることができる。昨年の「認知症施策推進大綱」で示された「認知症の共生と予防」では、認知症の人の人権尊重を基本として、認知症の人との共生が目指されている。

8月から利用者負担増

 2005年に施設とショートステイに居室代と食事代に自己負担が導入され、非課税世帯への負担軽減策(補足給付)が導入された。14年には補足給付に預貯金額による制限が加わった。

 今年4月からは、「金融機関への預貯金額照会」についての「本人同意書」の添付が不要になるなど手続きが簡素化された(同意書自体は必要)。

 介護保険の自己負担が一定額を超えると本人に戻る「高額介護サービス費」では、3年間の負担軽減策が7月で終わる。8月からは、所得による世帯の負担上限額が4万4400円から、年収によって9万3000円、14万100円にアップする人が出てくる。

介護保険関連法が改正

 介護保険改正にかかわる「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」が先ごろ国会で可決され、6月12日から公布された。これは介護保険法、老人福祉法、社会福祉法などの改正で、ポイントは以下の5点だ。

 第1は高齢・障がい、児童、生活困窮者に一元的に対応できるよう、制度の枠を超えた総合相談体制と地域活動参加の整備などだ。

 第2に、そのために医療保険と介護保険のデータの突合せや、地域における医療介護連携の推進を行う。

 第3は「社会福祉連携推進法人」の創設だ。様々な社会福祉連携推進法人を創設し、業務種別を超えた連携や資金の貸し付け、人材確保などを行うもので、これも社会福祉法人の業務を超えた共生社会実現へのステップだ。このほかに、有料老人ホームの届出の簡素化や、外国人介護職確保のために介護福祉士養成施設卒業者の「国家試験5年延長」なども含まれている。

「保険者機能強化推進交付金」の拡大

18年に導入された自治体へのインセンティブ制度は、都道府県と市町村が対象。

 都道府県は、①介護保険データによる課題把握②自立支援・重度化防止策③市町村の達成状況把握――がそれぞれ点数化され、その報告成果により現金給付が行われる。

 市町村では、①保険者機能強化の体制確立②自立支援・重度化防止の具体化③地域包括支援センター、地域支援会議の具体化④在宅医療・介護連携の具体化⑤認知症対応⑥総合事業への取り組み⑦生活支援⑧要介護度の維持と改善状況⑧介護給付の適正化――などの取り組みごとに点数化され、それを都道府県に提出する。

 全国の市町村の点数を並べて、高い点数を取得した市町村に現金を交付する仕組みが、20年度はさらに細かく制度化され、かつ「市町村を競争させる」仕組みが取り入れられた。居宅介護支援事業所の指定権限が都道府県から市町村に移ったことと合わせて、市町村がケアマネジャーと連携し介護保険の給付コントロールをする方向にもつながりかねない。

 新型コロナ対策で介護サービス事業者やケアマネジャーは疲弊しているが、皆さん「利用者のため」に頑張ってきた。疲弊してもやりがいはある。やりがいのある介護保険にしていかなければならない。
服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2020年7月10日号)

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