介護保険と在宅介護のゆくえ

全世代型社会保障のウソ/服部万里子(連載83)

全世代型社会保障のウソ/服部万里子(連載83)

 「ポスト真実」(post-truth)とは、世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的心情にアピールする方がより影響力を持つ状況を示す言葉(2016年、その年の言葉に選んだオックスフォード英和辞典の定義)。

 福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーが福島原子力発電所の事故後、「小児の甲状腺被ばくは深刻なレベル」と国の研究機関に報告した2時間後に、福島県内の講演で「心配いらないと断言する」「放射線の影響はニコニコしている人には影響ない」と話していた(1月28日付東京新聞)。

 厚生労働省の勤労統計の誤りを調べる特別監査委員会の検証の公平性、中立性が揺らいでいる。経済産業省の「商業動態統計調査」、国土交通省の「建設工事統計」でも国の統計の不適切が明らかになり、日本経済新聞の世論調査(1月25~27日)では、政府統計を「信頼できない」が79%にのぼる。税金を費やし、政策の根拠になる統計に国民の8割が不信感を示している。介護保険の収支統計(介護保険事業状況報告)の17年度分の公表が遅れていることも、これに関係しているのだろうか。

全世代型社会保障への転換

 1月28日の国会で、安倍首相が今年の国政の基本方針の柱に掲げた「全世代型社会保障」は経済財政運営と改革の基本方針2018で提案され、茂木経済再生担当相が担当に指名されている。

 ただしこれは、「社会保障」と言いながら内実は経済財政政策である。3つの特徴がある。第一は児童福祉から障がい者、高齢者など全世代を対象にしていることである。第二は、財源は税金による児童福祉や障害者福祉等の社会福祉から、勤労者の勤労者皆保険制度への転換である(被用者保険は働く人が勤務先から加入する健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険で雇用者と働く人が保険料を払う)。第三は働き手を増やす「一億総活躍社会」が究極の経済政策として基礎にあることである。

具体的な政策動向

 具体的には以下の政策が提案され、今後じわじわと導入に向けて動き出す。

 ①被保険者の負担を増やす=高齢者医療制度や介護制度で、所得だけでなく預貯金や持ち家などの資産能力に応じた支払いへの変更、外来受診時の定額負担、後期高齢者の2割負担など。

 ②経営の効率化=介護助手、保育助手、介護に無資格者導入などで保険支払いを下げる、介護の経営の大規模化・協働で効率化させ、小規模事業所を淘汰。

 ③介護保険の見直し=介護のケアプラン作成、多床室室料、介護の軽度者への生活援助サービス見直し、AIによるケアプラン作成、要介護度の改善、生活自立、介助が減る、給付削減に介護報酬アップ。

一億総活躍は保険料負担者を増やす経済政策

 国は70歳を超えても働くよう年金受給開始年齢を75歳まで延長しようとしている。介護離職10万人に対する「介護離職ゼロ」は、介護サービスの充実ではなく、「介護保険制度や介護休業制度の内容や手続きの周知拡大」と建前を掲げる。年間10万人の出産育児の離職に対し「保育所不足」が継続している。

 貧困率の拡大や非正規雇用の拡大などの国民の課題より、ホームレスや犯罪者も生活困窮者自立支援で就労を促すなど、保険料を徴収する人を増やし、一億が働き保険料を収める。働き手を増やし、生活の安定や豊かさよりも、経済優先である。企業収益は4倍になっても国民生活に反映されていない。

 私たちが見るのは保育や擁護や介護や医療を必要とする地域住民の生活であり、「一億総活躍」や「共生社会」「自立支援」などの耳触りの良い言葉に騙されてはいけない。
服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事研修委員長)

(シルバー産業新聞2019年2月10日号)

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