介護保険と在宅介護のゆくえ

介護保険はなぜ虐待を止められないのか?/服部万里子(連載85)

介護保険はなぜ虐待を止められないのか?/服部万里子(連載85)

 介護保険が始まって20年が経過した。家族の介護負担を軽減し、専門職によるサービスを増やすとして40歳以上の国民から死ぬまで保険料を徴収し、国が社会的に介護をすると約束しておきながら、なぜ虐待が増加するのか。

専門職による虐待は 4年で通報・認定件数ともに1.7倍に

 専門職による虐待は4年で7割増え、介護者による虐待は2017年度1年間で1万7078件が虐待認定され、同年度に28件(28人)の虐待死が確認されている。頼る介護職や家族から虐待を受ける利用者には逃げ場がない。そして介護職は就労希望者が減り、家族の介護離職は介護保険導入後倍増している。これは介護保険制度の崩壊である。

 児童虐待では10歳の子供の死を契機に全国の虐待を調査し、170人を保護し2600人が継続調査と発表した。高齢者虐待は1年で28人が虐待死している、いつ全国調査に取り組むのか? 

介護保険の崩壊から再生へ

 虐待を助長する背景には介護保険制度の改変がある。受給者1人あたりの受給額が削減され、2割、3割負担が導入されサービス事業経営は厳しくなり、厚生労働省が推奨する混合介護(保険給付と自費サービスの一体的提供)に走る事業所がでてきた。また、「介護保険からの卒業」として要介護認定率を下げ、サービス受給を減らした市町村に現金を交付するインセンティブ制度の導入は市町村も追い詰めている(厚労省は次期改定で財源を介護保険にする方向)。

 これらに向き合い利用者の代弁をするケアマネジャーやサービス事業所の専門職に期待したい。また、制度の言いなりになるのではなく、住民の声を活かすよう市町村にも頑張ってほしい。

 「知的障がい者は税金を使い社会に役立たない」として19人の重度障がい者の命を奪う事件が起こった神奈川県は、「悲しみを力に、ともに生きる社会の実現」を掲げ県民活動に取り組み、「かながわ憲章」を定めた。データ改ざんや障害者雇用率の偽造など行政が揺れる今日、地域とともに、「アポ電詐欺」や児童養護施設の殺傷など、地域の不安を取り除くような取り組みを市町村に期待したい。その再生の力は、現場に向き合う介護職やケアマネジャーであろう。
服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2019年4月10日号)

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